「島と島が、近いんだな」
『劇映画 孤独のグルメ』に出たちゃんぽんを食べに奈留島に行ったついでに、映画のロケ地もいろいろと見て回ってきました。五島列島なんてそう頻繁に行ける場所でもないし、できるだけ堪能したい。
ちなみに劇映画の五島列島でのロケ地に関しては五島市が運営する観光案内サイトにて詳しく説明されています。

これを見ると劇中では奈留島ということになっていた場所のほとんどが福江島で撮影されていたことが分かります。私は映画の公開初日の夜に門前仲町の庄助に行ったところ、たまたま隣り合わせたお客さんが五島出身の方で「地元民的には五島のシーンにはいろいろとツッコミどころがあった」というお話を伺ったのですが、おそらくそれは「ここ奈留島じゃないよね?」とか「この店で SUP レンタルしてないよね?」とかいったものだったと思われます(笑
今回は時間の関係で奈留島をゆっくり見て回る余裕がなく、主に福江島のロケ地を巡ってきました。
私が訪れた福江島と奈留島ではそこらじゅうに劇映画のポスターと五島市とのタイアップポスターが貼り出されていました。映画に登場しなかった場所でも多数見つけたので、市か観光協会が大々的に配布しているのでしょう。五島列島を挙げて孤独のグルメを歓迎してくれているのが嬉しい。
ちなみに↑の写真は福江島内の移動に使ったレンタカーショップの店頭です。ここのママさんは「島に映画館がないからまだ観れてないんですよ~」と仰ってましたが、島に映画のロケが来たことは喜んでいるようでした。
福江島でまずやって来たのは北東部にある堂崎教会。劇映画のタイトルバックで五島の空撮映像が映し出された後、五郎がこの近くを歩いているシーンから始まります。
フランシスコ・ザビエルがまず九州に上陸して平戸(長崎県)で布教活動を行ったことや天草地方(熊本)と地理的に近いことの影響か、五島列島にはかつて多くの隠れキリシタンが暮らしており多数のキリスト教関連施設があります。堂崎教会はその象徴的な施設のひとつ。現在はこの施設は教会としての活動を行っておらずキリシタン資料館(内部の観覧は有料)として運営されています。
館内は撮影禁止だったため具体的な写真はありませんが、隠れキリシタンの信仰関連の遺物や「踏み絵」の実物、当時の記録などが多数展示されていました。歴史の教科書で読んだことはあっても実物を見たことがないものばかりで、目にするどれもが興味深い。特にマリア像をはじめとする遺物には仏教の様式が混ざったようなものが多く、それは果たして仏教の概念を下敷きにすることでキリスト教が日本人に浸透していった経緯なのか、それとも表向き仏教の物品に見せることでカモフラージュすることが目的だったのか分かりませんが、いずれにしても当時の信仰の文化的側面を見た気がしました。
ちょうど先日『SHOGUN』を観て安土桃山時代におけるキリスト教信仰がどのようなものだったかに少し興味を持ったタイミングだったので、堂崎教会の見学はとても興味深かったです。孤独のグルメ聖地巡礼という軽い気持ちで来たら、それ以上のものを持ち帰った気分。
映画では堂崎教会のカットの次に五郎が訪れたのがここ、五島市役所の奥浦出張所。福江港から堂崎教会に向かう途中(教会の少し手前)にあります。
五郎が役所の職員に聞き込みを行うシーンが撮影されていた場所です。あいにく私が行ったのが休業日で中に入ることはできませんでしたが、ガラス越しに中の様子を伺うことくらいはできました。
出張所で魚屋のタエさんに関する情報を聞き、途中でちゃんぽんを食べた後に五郎が来た「田中水産」も福江島にあります。ロケ地がほぼ島の東側に偏っている中でここだけが島の南側。島内には路線バスも走っていますが、効率よくロケ地を巡るならやはりレンタカーが良いでしょう。
そういえばタエさん、あまりにも地元民として違和感ない演技でしたがエンドロールで漫画家兼女優の内田春菊が演じていたと知ってのけぞりました。
タエさんから「いっちゃん汁のダシに使われているのは『エソ』の煮干しでは」というヒントを得て五郎が福江島の乾物屋に電話をしていた高台にも行ってきました。福江港と福江空港の中間地点にある高台で、ここからは島内の市街地や遠方には他の島も望むことができます。これはなかなかに良い景色。しかも坂の多いこのあたりの光景は確かにどことなく谷口ジロー氏の絵に似てるところがある。
それにしても、劇中では全て奈留島での出来事として表現されていたのがほぼ全て福江島での撮影だったとは。しかも「福江島に電話をかけるシーン」まで福江島で撮ってたとは(笑)。実際に現地に来ると確かにツッコミどころの多い構成であることが分かります。
五郎はその後奈留島から福江島に戻るためにフェリー乗り場に行ったらもう船はなく、SUP(スタンドアップパドルボート)で渡ろうと思いついて SUP のレンタル店を訪れます。そのロケ地となったのは先ほどの堂崎教会のすぐ隣にあるカフェ「BABY QOO」。もちろん SUP の貸出はやってません(笑。
せっかくだから名物のチリンチリンアイスでも食べていこうかと思ったら、残念ながら営業していませんでした。
でも「このへんに立てかけてあった SUP を拝借していったのかー」とか「ここに置き手紙と一万円札を置いてったのかー」とか、映像を思い出しながら見学するのは楽しかったです。何せ私は劇映画を五回も観たからセリフをある程度諳んじられるレベルになりました(笑
そしてこの BABY QOO の真正面に見える海がとても美しかった。エメラルドグリーンのいかにも南の海といった風情で、しかも周囲に見える人工物が少なく自然のままというのがさらに良い。チリンチリンアイスをつつきながらこの景色を眺めたら、きっとおいしかったろうなあ。
ちなみに五郎が SUP で漕ぎ出した海はここではなく、奈留島側の海水浴場だったようです(今回未訪)。
あと映画には登場しませんが福江空港(五島つばき空港)にも立ち寄ってきました。長崎と福岡からの路線があり、天候次第で欠航しがちな海路よりももしかすると空路を使った方がリスクは低いかもしれません。
この空港に来てまず驚いたのが、
エントランスの正面に劇映画のどでかい看板が!それも世界遺産の看板の真横に、それと同じ大きさで掲示されている。なんならゴローの顔のインパクトで世界遺産よりも目立ってる(笑。
福江空港から発着するのは ANA で映画のスポンサーは JAL だし、映画にはそもそも空港も登場しないのにこの扱いの大きさ。それくらい『孤独のグルメ』がこの島の観光資源になっているということでしょうか。
空港内にも当たり前のように五郎の等身大パネルとポスターが展示。
年明け以来あちこちの映画館で見かけたこの等身大パネルを五島列島のあちこちでもまた見ることになろうとは。
ということで主なロケ地も一通り巡ったことだし再びジェットフォイルに乗って帰るわけですが、そういえばなんだか…腹が、減った。
本当は松重さんが訪れたという五島うどんもしくはちゃんぽん(みかんやではなく福江島の店)に行きたかったけどいずれも営業時間中に間に合わず。やむを得ず福江港ターミナルビル内にある軽食もとれる喫茶店に寄ってみました。
この店のメインはおむすびの販売。数年にわたって長崎県内 1 位の評価を得ている五島産の米を使ったおむすびが何種類も販売されています。
私も試しに「かつおの生節マヨネーズ」のおむすびを食べてみましたが、お米の粒が立っていておいしい!しかもかつおの生節のうまみがまた米を誘う。
さらには五島に来たからには食べて帰りたかった五島うどんも注文してみました。
今まで知らなかったけど、五島うどんは讃岐・稲庭と並んで日本三大うどんの一つに数えられているらしいじゃないですか。
魚介の味がしっかり感じられる二種のかまぼこが入ってくるのが五島らしさの一つ、といったところでしょうか。
五島うどんは生地を切るのではなく細長く伸ばして作る手延べうどんで、断面が丸いのが特徴。細いのにしっかりとしたコシがあり、同じ九州でも博多のうどんとは全然キャラクターが違う。
出汁は長崎らしくアゴ(トビウオ)で、魚臭くないのに強いうまみがある魚介系スープがおいしい。飽きずに毎日でも食べられそうなうどんですねこれ。
というわけで番外編的なものも含め、福江島の聖地巡礼を堪能しました。弾丸気味であまりゆっくりできなかったけど主要なロケ地を一通り網羅できて良かった。

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