「腹、減ったでしょ!」
『劇映画 孤独のグルメ』の公開から一週間が経ち、そろそろネタバレしても良い頃合いですかね。
映画のエンドロールでは懐かしい門前仲町の映像がバックに流れていました。ただし実景に CG で架空の飲食店の看板がいくつか追加されており、なんか見覚えあるんだけどちょっと違うような…という映像。その中にあった「フレーフレー食堂」という看板は、松重監督がこの映画のテーマの一つとして掲げていた「コロナ禍を経てがんばっている飲食店へのエール」を具現化したものなのでしょう。
で、このエンドロール。良いゆったりとした映像に Kan Sano 氏の『神様のメロディ』が流れるのが映画の余韻に浸るのにちょうど良い。そして最初は五郎の身体に隠れていた看板が、五郎が歩いて行くにつれて見えてきて…そこに「庄助」の文字。エンドロール終了後に冒頭の台詞と共に五郎がお店の暖簾をくぐるところで終劇します。
このお店、もちろん言わずと知れたドラマ Season1 第 1 話の舞台。ドラマシリーズが 13 年続き、10 シーズンと特別編『それぞれの孤独のグルメ』、さらに数々のスペシャルドラマを経て映画になったラストで再びこの店に戻ってくる演出が心憎いじゃないですか。このラストの台詞は日本語に加えて韓国語、中国語、英語、フランス語の五カ国語で撮影されたと。Blu-ray/DVD が発売されるなら各国語版のラストも映像特典として収録してほしいですね。
入口の黒板には『孤独のグルメ』に登場した店であることを大々的に宣伝していました。
ここ、ドラマ登場時には穏やかな感じのおかあさん二人で営業していたのが十年ほど前に経営が変わり、現在はおじさん三人ほどで営業している模様。ドラマのファンを広く受け入れてくれるのはありがたいけど、以前の落ち着いた雰囲気も好きだったからちょっと寂しい。
実は最近この店に二回ほど行ったのを今回まとめてレポートしているので、カウンター席とテーブル席の写真がごちゃ混ぜですがご容赦を。
飲み物は瓶ビールから。こういう店には生ビールよりも瓶ビールがよく似合う。お通しが典型的な煮物、っていうのがまたいいじゃないか。
焼き鳥を頼む前にまずはすぐにできるおつまみで間を持たせよう。
小松菜のおひたし、シャキシャキした食感とたっぷりめの鰹節が嬉しい。
塩らっきょう。酸味と塩味、らっきょうの刺激的な香りでビールが進む。
変に凝った料理なんかなくても、こういうのでいいんだよこういうので。
茄子の煮びたし。
茄子って子どもの頃には良さが分からないのに、大人になるとこのうまさが理解できる食材筆頭だよなあ。いろんなものの旨味をその身に受け止めて絶品になる。
山芋わさび漬。
山芋のシャクシャク感と辛いまでいかないワサビの爽やかな香り。しみるなぁ~。
こちらは昔はなかったメニューだと思うけど、「わがまま豆腐」というネーミングに興味を引かれて頼んでみました。
豆腐に納豆、ネギ、長芋を合わせたバクダン納豆の亜種みたいな一品。ぐるぐるかき混ぜて食べるとネバネバ、ツルツルした食感でこれまたお酒が進む。
そうなると瓶ビールが全滅の憂き目に遭うわけで、ハイボールへと進軍。
カットレモンで酸味を自分好みに調節できるのがありがたし。
この店に来たなら頼まずには帰れない定番の一つ、信玄袋。
知らない間に具材が「ホタテオクラ」と「砂肝ネギ」の二種類に増えてました。以前はホタテオクラだけだったよね?
ホタテオクラはじんわりくるうまみ主体のしみじみする味。
砂肝ネギは厚揚げの中から現れるコリコリした食感のネギの香りで、ホタテオクラとは対照的にパンチある味。どちらも捨てがたいおいしさ。
そして満を持して焼き鳥の登場。まずはつくねピーマンから。
そういえばドラマ第 1 話のタイトルは「やきとりと焼めし」だったはずなのに、脳内では「つくねピーマン回」として記憶されるほどインパクトがあった品でした。生ピーマンとつくねを一緒に食べる、この面白さがドラマ『孤独のグルメ』の初期の評価を高める一役を担っていたことは間違いない。
ピーマンの上でつくねをギュッと潰して、一味や七味を振りかけていただきます。
焼きたてアツアツのつくねと、冷たく苦味の少ない生ピーマンの組み合わせ。何度食べても面白いし、いくつでも食べられそうな気がしてくる。
追って他の焼き鳥たちもやってきました。左から順に軟骨、砂肝、皮、手羽先。タレの選択肢はなく、塩味のみとは潔し。
特別な焼き鳥ではないけれど、一つ一つが確実にうまい。ちょっと焦げたところもまた味わいと言える。
そしてねぎまとレバー。
経営が変わっても、この素朴な焼き鳥のうまさは変わらないなあ。こういう店で焼き鳥をつまみに飲める大人になりたかったし、なれて良かった。
ハツレバ炒め。たっぷりのもやしとニラに、その名の通りハツとレバーを一緒に炒めたもの。
これは食べ応えある!し、ハツとレバーでそれぞれ異なる食感が楽しめるのもいい。ビールにもハイボールにもよく合うつまみだ。
オムレツは具材がいろいろ選べたところ、コンビーフを選択してみました。
オムレツっていうより玉子焼きっぽい素朴さで、大根おろしが添えられているのがさらにそれっぽい。コンビーフって普段そんなに食べないけど、こういうところでたまに食べると妙にうまいんだ。
〆はもちろん焼めし。チャーハンじゃなくて「焼めし」なのがいいんですよ。
梅、じゃこ、胡麻、大葉でさっぱり。特に梅風味が効いてるのが何とも言わせないんだよなあ。いろいろ飲み食いした最後であってもこういう軽い焼めしなら全然入ってしまう。
ああ、いい夜だった。
実を言うとカウンターに座った日は映画の公開初日の夜でした。映画のラストシーンを見たら五郎と同じようにこの店に駆け込みたくなってしまって。
で、隣の席のお客さんがどうも映画を観てきた人っぽいなあ…と思っていたらお話しする機会があり、なんと初日に映画を観てその足でこの店に来た五島列島出身の方(!)というミラクルでした。結局そのまま『孤独のグルメ』の話で一盛り上がり。稀にあるこういう出会いもまた、聖地巡礼の楽しみの一つです。
つくねピーマンの味が恋しくなったら、またこの暖簾をくぐりに来ます。
ごちそうさまでした。
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