「俺の経験によれば・・・昔ながらのうまい店を探すなら、川のそばを攻めろ」
というわけで、ドラマ『孤独のグルメ』第 1 話に登場した門前仲町の「庄助」に、今回はやってきました。
このお店、想像以上に小ぢんまりとした店構えで、地元の人でもなければそうそう入らなさそうな気配を醸し出しています。昔ながらの長屋みたいな間口の狭く、奥に長いつくりで、ウチの近所の路地裏にも似たようなお店がありそうな感じ。でも生まれたときからその地に住んでいなければちょっと入りづらい、そんなお店です。でも、店内は別に一見さんお断りという雰囲気でもなく、とても家庭的な雰囲気でした。しかも、かなり混んでいるという。こういうお店って、早ければ 17 時くらいから地元の人々でいっぱいになって、逆に 20~21 時にはお客さんがまばらになるものですよね。
私の席はカウンターの一番奥、ゴロー席の隣でした。
まずはビールとお通しで乾杯。生ビールなんて気の利いたものは当然なく、瓶ビールだけどそこがいい。そしてお通しの大根、それに手羽の煮物・・・うん、しみてるしみてる。見るからにじっくり時間をかけて煮込んであって、ホッとする味です。田舎のおばあちゃんの家に遊びに行って晩ご飯を出してもらった、とでもいうような味と居心地で、これだけですっかり落ち着いてしまいました。
そして、明らかに常連とおぼしきおじさんがあえて「おねえさん、茄子の味噌炒めできる?」とメニューにない注文をするベタベタな展開もまた良し。
メニューはこんな感じでいろいろありますが、材料さえあれば本当に何でも作ってくれる感じです。お店に来たというより、おばあちゃんに好きなものをせがんで「ハイカラなものは作れんけどねぇ」と言われながら作ってもらうような雰囲気、と言えば良いでしょうか。おかみさん二人で切り盛りしているお店で、さすがにおばあちゃんは失礼ですが、私の母よりはずいぶん年上に見えます。藤田弓子と高畑淳子をそれぞれ下町にローカライズしたような、気さくなおかあさんたちが手際よく料理を作ってくれます。
メニューの中に「グリーンボール浅漬」という、この店には似つかわしくない珍しい名前が書かれていたので、頼んでみました。実態はキャベツの浅漬け。シャキシャキとした歯ごたえと、漬かりすぎていない爽やかな酸味でビールが進みます。
そしてさっそく本命の焼き鳥に進みます。7 種の焼き鳥が 1 本ずつ食べられる「焼とり 7 本セット」を注文。タレなんて邪道です、偉い人にはそれが解らんのです、とでも言いたげに塩のみの焼き鳥です。
まずはつくねと軟骨から。いきなり本命キター、という感じで、このつくね、むちゃくちゃホクホクです。普通に作ったらこうはいかないはずなので、もしかして山芋か何かをつなぎに使ってる?まるではんぺんのように、と言ったら少し言いすぎかもしれませんが、それくらいフワフワした食感のつくねです。なんだろうこのうまさは・・・なんだか、笑えてくるな。
軟骨はものすごく歯ごたえのある食感で、食べている口の外にまでコリコリいう音が響くほど。歯周病の人には応える固さですが、それもまた良い。じっくり噛みしめます。
続いて手羽。ちょっと焦げているところが手作り感満載でまたいい。
うん、うまい。これでごはんが食べたくなるなあ。なんでメニューに「焼き鳥定食」がないんだろう。
レバー。いかにもレバーらしいレバー。焼き鳥はどれも大山地鶏を使っているそうですが、別にそんなのを謳わなくたって、うまいものはうまいんです。
そうこうするうちにも焼き鳥はどんどん焼けてきます。放っておくとカウンターが焼き鳥でいっぱいになるので、しゃべるのも忘れてどんどん食べていきます。
飲み物はこのあたりでレモンサワーにバトンタッチ。別に先日の人間ドックで高尿酸値を指摘されたことを気にしているわけではありますけど!(ぉ
おかみさんがグラスに氷、焼酎、ソーダを順に注いで最後にカットレモンを絞って出来上がり。チェーン系の居酒屋で飲むサワーと違って、焼酎が濃いよおかあさん!この味でもう、気分は地元ののんべえです(笑
鶏皮も、いかにも皮って皮。こういうのって体に良くないと知ってはいても、やめられないんですよね・・・。カリッと焼けた皮の中から脂がじゅわっと。
そしてコリコリした食感がたまらない砂肝。そういえば、かつて砂肝のうまさを理解したときは、なんだか大人の仲間入りをしたような気持ちになったなあ(笑
焼き鳥の最後はねぎま。普通、ねぎまって最初に出てくるものだと思っていましたが、ここはたまたま焼き上がりの順番がそうだったのか、〆がねぎまでした。そういえば焼き鳥セットの中で唯一、このねぎまが正肉を使った焼き鳥でした。少し焦げ目のついたネギの風味がまたいい。
焼き鳥を食べ終わったのでいったん口の中をリセットしよう、と頼んでみたのがこの山いもワサビ漬。山芋のシャクシャクツルツルした食感に、思いのほか効いているワサビの刺激で、焼き鳥のうまさに恍惚となった舌がシャキッとします。そして例の濃いレモンサワーがまた進むという(笑
次はキャベツコンビーフ炒め。先日、中目黒の草花木果に行って以来、スパムとかコンビーフが妙に恋しくなる瞬間があって、どうしても頼まずにはいられませんでした。コンビーフの塩気がキャベツに良い感じに馴染んで、これだけで白い米が食べられそう。
お・・・きたきたきましたよ。ゴローがやたらうまそうに食べていたピーマン。いや正確にはゴローが常連客の食べ方をガン見した挙げ句マネした生ピーマン(笑。これをどうやって食べるかというと・・・、
はい。つくねをもう一本頼んで、ピーマンの空洞に入れて、つくねを潰してピーマンと一緒に食べる。ある意味、新しいピーマンの肉詰めです。単品で食べても十分すぎるほどうまいつくねでしたが、ピーマンと合わせるとまた違った味わいが生まれてきます。このピーマンがまた新鮮で肉厚で、ゴローは「苦い、苦いぞ。苦うまい」と言っていましたが、全然苦くない。むしろ緑色をしていなかったらパプリカと言われてもおかしくない甘みです。これはうまい。
こちらもゴローズチョイスの「信玄袋」。油揚げを焼いて醤油を垂らした中には、普通は餅か納豆が入っているものですが・・・こいつの中に入っているのは、ホタテとおくら。ホタテの香りとうまみに、おくらのネバネバした食感、それに焼いた油揚げの香ばしさってこんなに合うものだったのか・・・!と、新しい発見。
おかみさん曰く「もともとおすすめだったけど、あまり知られていなくて・・・でも、『(孤独の)グルメ』で紹介されてから人気メニューになってね」とのこと。
そろそろ魚も・・・ということで、例のホッケスティックか、メニューで気になった「イワシ丸干」がうまそうだな、と思っていたら、「さんま丸干し焼がおすすめですよ」ということで、頼んでみました。さんまの丸干しって食べたことがありませんでしたが、脂の乗ったさんまを干すとこんなにうまみが増すものなのか・・・というのも新発見。骨まで全部食べられます。
そろそろもう一つのメイン、焼きめしをいただきましょうか。焼きめしと梅干し・・・発想がなかった。これいいぞ。と、白飯派のゴローを納得させてしまった焼きめしは、梅干し、じゃこ、ごま、しその香りが複雑に絡み合って、焼きめしにありがちなしつこさが全然ない。むしろ口の中がスッキリしたので、まだまだ注文します(ぉ
飲み物は〆に向けてウーロンハイに移行。下戸のゴローちゃんと違って、私はアルコール入りのほうのウーロン茶です。そしてこれも焼酎が濃い(笑
続いてのつまみははんぺんのバター炒めです。バターがふんだんに使われていて、香りが良い、そしてフワフワ。ばあちゃんはこんなの作ってくれたことはないけど、なんだかばあちゃんが懐かしくなる味だ(笑。
ラストは明太子入りオムレツで。いかにも手作りらしい見た目と味で、明太子も辛すぎなくて優しい味。そろそろ終電が近づいていますが、帰るのが惜しくなってきます。でも、そろそろおいとま。
カウンターの上には、ドラマ主演の松重豊さん、そして原作の久住昌之さんのサイン色紙が大切に飾られていました。我々も新顔だったことと、おそらく注文している内容から察しがついたのか、おかみさんから「『グルメ』観ていらしたの?」と聞かれていろいろと会話しました。本当に昔から知っている近所のおばちゃんのような、そういう気のおけなさで、私はこのお店がすっかり気に入ってしまいました。
というか、この色紙によると、撮影日は本編と『ふらっと QUSUMI』どちらも昨年の 12 月 28 日!放送が年明けの 1 月 4 日だったので、そうとう突貫での編集だったことがわかります。ご苦労さまです>スタッフの方々
お店を出て門仲の駅に向かう間の脳内 BGM はもちろん『五郎の 12PM』。ロケーションがまた、この曲が似合う路地裏なんですわ。今までこういう場所で飲むことって滅多になかったのに、これが落ち着くというのはそういうトシになったのかな・・・と思いつつ、いやいやこどグルに出会っていなければそんな機会もなかったはずだ、と思い直します。
ちょっと、食べ過ぎてしまった。今度はタレで、白い飯食いてえな・・・。
コメント