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高い城の男

久しぶりに SF 小説を読んでいました。

フィリップ・K・ディック / 高い城の男

高い城の男

アンドロイドは電機羊の夢を見るか?』で有名なフィリップ・K・ディックの代表作の一つです。『機動戦士 Gundam GQuuuuuuX』の元ネタのひとつと言われていて、私はどんな話かは知っていたものの読んだことがなかったのでこれをきっかけに読んでみました。

「第二次世界大戦においてドイツ・イタリア・日本の枢軸国側が勝利した世界」を描いた仮想戦記ものです。それも単なる仮想戦記ではなく、作品世界の中で逆に連合国側が勝利した仮想戦記『イナゴ身重く横たわる』が出版されベストセラーになっている、という話。『イナゴ身重く~』は概ね我々の現実世界と同じ史実を辿っているものの細部が微妙に異なっている、というところも含めて GQuuuuuuX の世界観によく似ています。

本作では連合国側が敗戦したことによりヨーロッパは主にナチス・ドイツが、アジアは日本が支配。北米は太平洋側を日本、大西洋側をドイツが分割支配しており、物語は主に北米の日本支配地域である「アメリカ太平洋岸連邦」を舞台としています。また太平洋岸連邦では日本から伝わったとされる(出自は中国ですが)易経が文化として定着していて、多くの登場人物が自らの運命を易経に委ねる場面が描かれます。
作風としては明確な主人公は存在しない群像劇の体裁をとっており、主に以下四人の登場人物の視点で物語が進みます。

  • ロバート・チルダン:アメリカ太平洋岸連邦で主に日本人を相手に古美術商を営む男。戦勝国民である日本人に対して強いコンプレックスを抱いている。取扱商品の贋作事件に巻き込まれ、その後フランク・フリンクが売り込みに来た装身具が彼の転換点となる。
  • フランク・フリンク:太平洋岸連邦に住む工芸職人。職人としての腕は良いが工場では贋作を作らされていた。実はユダヤ人であることが発覚し逮捕、ドイツに送還されそうになる。
  • ジュリアナ・フリンク:フランク・フリンクの妻だが貧困に嫌気して別居。『イナゴ身重く横たわる』を読み、イタリア人ジョー・チナデーラとともに著者である通称「高い城の男」に会いに行こうとする。
  • 田上信輔:日本の通商官僚で、政府からある特命を与る。ロバート・チルダンの得意客でもある。

いやー読みづらかったです。現実とは矛盾する世界設定があり、その中で多くの人物が登場するためまず状況を理解するのに時間がかかる。設定や人物像の説明に前半の多くを割き、かつあまり大きな事件が起きないから読み進めるのがしんどい。本当は GQuuuuuuX の放送中から読み始めたにも関わらずなかなか進められませんでした。同じ作者の小説でも『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は比較的シンプルなストーリー、かつ『ブレードランナー』という映画が存在するからイメージがしやすかったのに対して本作は映像もなし(Amazon 製作のドラマは未見)で登場人物も多いから大変でした。
しかし中盤を過ぎたあたりから核心を突くような事件が同時並行的に発生して一気に引き込まれました。特に終盤に向けて大規模な軍事作戦やそれに伴うクーデターの発生が示唆されたり、劇中世界よりも高次元の存在を匂わすような描写があったりした部分は GQuuuuuuX のクライマックスと重なる部分。GQ のプロットが本作を参考にしていると言われれば確かにそう感じますが、ただし本作では大きな事件が解決されて大団円…というわけではなく、登場人物のそれぞれが新たな価値観を見つけたところで静かに終劇。いろいろと未解決なまま唐突に完結したような印象を受けました。

結局のところ本作は誰かが創り出した IF の世界、ということでしょうね。まるで GQ でララァが自分の望む宇宙を生み出したように。作中世界に登場する易経は、その創造主が作中世界に干渉し、登場人物の行動を規定するための存在と考えれば辻褄は合う。GQ 世界におけるニュータイプの閃きと同義のものです。それぞれの登場人物の閃きが有機的に繋がって最終的には世界そのものの価値観を変えるところまで到達してくれればもっと面白かったのでしょうが、そうならなかったのはやや不完全燃焼でした。
とはいえ、以降の多くの SF 作品に影響を与えたという『高い城の男』を一度ちゃんと読んでみることができて良かったです。GQuuuuuuX の副読本として読むには重たかったですが、ガンダムに限らず SF 好きとして履修できたことには満足。

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