二年前の劇場公開時には他に観たい映画がいろいろあってスルーしてしまっていましたが、今さらながら鑑賞。
聴覚障害をもつ転校生・硝子へのいじめの主犯格だった小学生時代の主人公・将也。そのことが学校で問題となり、同級生や教師からも全ての責任を押しつけられたことで、将也は罪悪感と人間不信から心を閉ざしてしまう。やがて高校生になり、硝子との再会をきっかけに彼を取り巻く人間関係が変わり始めて…という話。
あまり予備知識を入れずに見たので、聴覚障害が題材のアニメ映画だという程度の認識しかありませんでしたが、爽やかな感動青春モノっぽいキービジュアルとは裏腹に重たい作品でした。障害やいじめを扱うとどうしても重くなりがちなものですが、それよりも傷を持つ思春期の心のぶつかり合いが重い。
障害をもつけどとにかく人当たりの良い女の子。典型的なガキ大将タイプ。気弱だけど誰にでも分け隔てなく優しい子。ちょっとスレた、女子グループのリーダー的存在。外見も性格も欠点の見当たらないお嬢様タイプ。など、登場人物はどこか一昔前の漫画/アニメのテンプレ的なキャラクターばかりですが、それぞれ第一印象とはちょっと違う内面を持ち、物語内の時間の経過に伴って成長・変化していきます。ステレオタイプに見えつつも実は複雑で外からは理解できない瞬間もあるこの年代の心理描写が見事。基本的には将也の視点で描かれるため、内面を直接吐露するのは将也くらいですが、ちょっとした表情や仕草、溜め、といったもので機微が表現されているのがすごい。と思ったら、キャラデザがいつもと違うから途中まで気付かなかったんですが、これ京都アニメーション制作なんですね。
私は「いじめはされる側にも原因がある」とも「障害者は常に無謬であるべき」とも思いませんが、センシティブな故に当たり障りのない綺麗事でまとめられがちなこういうテーマの作品で、加害者・被害者(登場人物の一人はそのどちらでもある)の心境がフラットに描かれている点は率直に良いと感じました。精神がネガティブなときって何でも自分が悪いと考えがちだし、人の顔まともに見れないし、よくわかる。一方で加害側の「自分は悪くない」的な発想や、傍観者がつい見て見ぬふりをしてしまう状況も理解できる気はする。そのあたりの客観性をもった表現が秀逸です。
あくまで 130 分の映画の尺の中で描かれる物語なので具体的な成長の描写は将也・硝子の二人にフォーカスが当たっています。それ以外に明確な変化や成長が感じられるのは植野・佐原くらいで、真柴あたりは最後までどんな奴なのか解らずじまいでしたが、原作漫画ではそのあたりまである程度描写されているようですね。そんな中で、個人的に印象深かったのが硝子の妹・結弦(ゆづる)。彼女自身が狂言回しの役どころでありながら、物語を通じて最も変化・成長するキャラクターであり、見ていて飽きない。誰が声を当てているのかと思ったら悠木碧さん。今までまどマギのイメージくらいしかありませんでしたが、こんな中性的な声も出せるんですね。『SSSS.GRIDMAN』のボラーちゃんくんといい、同時期にこういう方向性の演技を立て続けに聴いて驚きました。
いじめに関する描写はストレートに痛いし、思春期らしいトゲトゲした言葉の応酬も刺さってくるし観終わった後はドッと疲れる「重い」作品ではあります。それでも救いはあるし、そうやって通り過ぎていくのが青春でもある。観るのにはけっこう体力を要するけど、良い映画だと思います。
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