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スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場

西田 宗千佳 / スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場

スマートテレビ。単語としては Google TV が出てくる前後くらいからありましたが、だいたい 2011 年の IFA あたりから頻繁に使われるようになったような印象です。IT/エレクトロニクスにおけるスマートフォン、(スマート)タブレットの次の潮流は間違いなくスマートテレビ、と言っても過言ではないくらいに最近スマートテレビに対する注目が高まりつつあります。
この『スマートテレビ』は、スマートフォンやタブレット、およびそれらの上で閲覧できるさまざまなコンテンツの電子流通周りを追い続けてきたジャーナリスト西田宗千佳氏の最新の著書。業界動向を表面的に追っかけたものではなく、スマートテレビが出現してきた背景を技術的、マーケット的、および業界構造的観点から掘り下げてあるので、それほど専門知識がない人でも「スマートテレビで今、何が起きているのか」をフラットに把握できるでしょう。

先日、鴻海(世界最大手の EMS として有名な Foxconn の親会社)がシャープの筆頭株主になったことを引き合いに出すまでもなく、今やテレビ事業は多くの経済誌に国内の電機メーカーの「お荷物」とまで評されるようになってしまいました。テレビにこれ以上の高画質化は求めていない、別にスマートテレビだといってアプリが使いたいとも思わない、「安ければそれで十分」という意見もあるでしょう。が、もしそれをジャーナリストや業界関係者が言っているのであれば、それは産業の「いま」しか見ていない、狭いものの見方だと思います。


スマートテレビとは何か?テクノロジー的な観点から言えば、従来よりも性能と汎用性の高い半導体と OS を搭載し、コンピュータ化してネットワークに接続されたテレビということになるでしょうか。用途の面から言えば、Web ブラウジングができるテレビ、動画配信サービスが受けられるテレビ、アプリが動かせるテレビ、従来の十字キーつきリモコン以外の新しいインターフェースで操作するテレビ、スマートフォンやタブレットと連携するテレビ、などいろいろあります。が、どれも正しいし、そのどれもが正しくない。いや、正確には「どれかだけでは正しくない」と言ったほうが良いでしょうか。
そういえば、1 年ほど前のイベントで「そもそもスマートフォンって何?スマートフォンって、ハードウェアだけ見たらそれ自体が賢いわけではなく、アプリやサービス、ネットワークとの組み合わせで賢くなれる電話」という問いかけがありましたが、それとほぼ同じことがスマートテレビにも言えると思います。

実は、用途の面から見ると、ここ 4~5 年のテレビはすでに「スマートテレビ」と言えるほどの機能性は備えていながらも、快適でない操作性、互換性の低いプラットフォーム、そして何より限られたハードウェアリソースのせいで「機能はあるのにほとんど使われない」ものがほとんどでした。この部分からしても、フィーチャーフォンとスマートフォンの対比によく似た状況にあると言えます。それが、スマートフォンの高性能化・低コスト化に伴い、テレビにも共通のプラットフォームを持ち込むことでユーザビリティと互換性の水準が一気に高まるのが、今起きようとしている「スマートテレビ」の本質と言って過言ではないでしょう。
ただ、私個人の見立てとしては、「電話機兼ハンドヘルドインターネット/メール端末」であった携帯電話からスマートフォンへのシフトや、「ノート PC のバリエーション的な存在、もしくは大画面化したスマートフォン」的なタブレットの位置づけのような明快さではなく、「基本的には放送を受像し、ときどきパッケージコンテンツを再生して楽しむもの」というテレビへの固定概念が強く、「テレビ画面を単なるディスプレイと認識して、そこで何をするか」というパラダイムシフトを起こすのに必要なカロリーが高いことが、スマートテレビの悩みの一つではないかと思っています。
とはいえ、スマートテレビにまつわる要素の全てを一気に認知させることは難しいでしょうから、その中からキラーとなり得る要素を見出して、それをテレビのパラダイムシフトの象徴にしてしまうのが最も近道でしょうが。個人的には、もしスマートテレビがスマートフォンと同じようなシナリオで普及していくとするならば、ユーザビリティ、つまり従来のテレビにはない気持ちの良い使い勝手や、常に持っているスマートフォンがそのままリモコンになるような操作性が鍵を握るような気がしているのですが。でもたぶん、それだけでも足りないような気もするし。

まあ、さっき「スマートテレビの悩み」とは書きましたが、現時点で国内において真の意味で今の「スマートテレビ」と呼べる製品は発売さえされておらず、これから、おそらく今年の夏から冬にかけて最初の製品群が出てくるでしょうから、現時点で悲観するのもどうかとは思います。実際の市場を見ると、スマートフォンは少なくとも今年はまだ成長基調にあるので、テレビ側がアナログ停波に伴う買い換え需要直後の冷え切った状況であることも併せて考えると、スマートテレビはスマートフォン市場が横ばいになる頃に初めて「ポスト・スマートフォン」的に需要が盛り上がってくるような動きをするのではないでしょうか。そういう意味では、日本におけるスマートテレビの普及は、もしかすると海外よりも遅い立ち上がりになる可能性もあると思いますし、通常のテレビの買い換えサイクルとスマートデバイスのハードウェアの陳腐化のスピードとのギャップをどう埋めるか、も課題になるでしょう。
汎用のプラットフォームと汎用のプロセッサを使う限り、スマートテレビもスマートフォンと同じく「Apple と Google 以外は誰も儲からない」市場になるリスクも高いと思います。でも、Google が今のように「UX で生活を変える」という部分に興味を持っていない限りは、それが実現できるのは Apple か、そのライバルとなる機器メーカーやサービスベンダーしかなく、それが実現さえできればメーカーもその顧客も幸せになれる目はある。そうでなければ、たとえ有機 EL テレビの低価格化が実現できたところで「安ければそれで十分」のスパイラルから脱することはできないでしょう。それはマクロ的な観点で見れば、みんなにとって不幸だと思います。

考えるべきことはたくさんあって、明確なゴールもない。潮流が来るのは判っていても、何が真の価値なのかさえ理解できていない人も少なくない。難しい分野だとは思いますが、少なくとも「進むべき方向の輪郭」は描かれている、そんな一冊だと思います。製造業に限らず、さまざまな分野でのコンバージェンスやクロスオーバーが進み、本質的な価値の再構築が求められている今だからこそ、むしろテレビ以外の産業に関わっている人に読んで、以て他山の石としてほしい書物だと感じました。

コメント

  1. むっちー より:

    ”「テレビ画面を単なるディスプレイと認識して、そこで何をするか」というパラダイムシフトを起こすのに必要なカロリーが高い”・・・そこ、そこなんですよね。

    いっそ地上波・BS/CS派すらテレビ自身では受信せず、画面はただの壁掛けディスプレイ、コンテンツはすべてネット経由でリモコンはゲームコントローラにもなるタブレットデバイス・・・と思い描いたとたん、
    スマートテレビという名称と今のよくわかんないモヤモヤ感がふっとんだ気がしました。

    が、仮に実現させるとしたらなんと無謀なことかとw

  2. B より:

    ただ、そういう考え方ができるのはそれなりに汎用コンピュータに触れてきた種類の人の発想なので、全員がいきなり一足跳びに到達できるというわけでもなく。そういった新しいテレビのありように、今のテレビからいかに地続きな道を作れるか、がスマートテレビの成否を決めると言って良いんじゃないでしょうか。

  3. むっちー より:

    そうですね。今回の自分の発想は『21世紀には車が空飛んでる』ってのと変わりませんから(笑

    今後”もっとTV”なんかでVODや、タイムシフトというものが広く理解されてくれれば面白くなるんですけど。

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