Vol.1 から一年、澤村徹氏責任編集『カメラホリック レトロ』の第 2 集が発売されました。
私は最近もっぱらオートフォーカスに頼りっぱなしだし、そろそろこのシリーズを読む資格ないかも…と少し気後れしていたのですが、今回のメイン特集がカールツァイス・イエナと聞いて目の色が変わりました。私が一眼カメラに手を出したのはツァイスレンズに憧れがあったからと言っても過言ではないし、『ツァイス 激動の 100 年』を読んでその歴史を識ったほどのツァイス信者としては買わざるを得ません。
カールツァイス・イエナ。第二次世界大戦後の東西ドイツ分割によって数奇な運命を辿ることになった企業です。本来は「カールツァイス」という一つの企業だったものが、軍需産業としての光学企業に目をつけたアメリカとソ連によって実質的に分割され、人的資源を西側のツァイス・オプトン、生産設備を東側のツァイス・イエナが継承。イエナはその後レンジファインダーから一眼レフへの変遷の波に乗って交換レンズ市場を席巻しますが、その後の日本製カメラに呑まれる形で没落、東西ドイツ統一に伴う東西ツァイスの再統合によって消滅…という歴史を辿りました。先の『ツァイス 激動の 100 年』にはその企業としての歴史については記されていましたが、光学製品の視点ではあまり具体的に書かれていなかったので、そういう部分に関しては本書の方が詳しいと言えます。
イエナと言えば黒銀のゼブラ、と言って良いほどイメージが強い鏡筒デザイン。実は年代によって全然違うデザインをしているのですが、主に 1960 年代後半に精算されたこのゼブラ柄には憧れます。
そして西側の Planar や Tessar、Distagon といった有名なレンズ名ではなく Pancolar、Biotar、Flektogon…という独特のネーミングルール(一部、西側と同じ Tessar や Sonnar 銘もあるけど)を持っているのもイエナの謎めいたところ。Flektogon 20mm と 35mm は以前から使ってみたいレンズでしたね。
とはいえイエナ自体はオールドレンズ黎明期からの定番でもあるので、メインどころはどんな種類があってどんな描写をするのかはだいたい知ってるし…と思っていたのですが、それで終わらないのがオールドレンズの第一人者である澤村氏のすごいところ。定番以外にもイエナでは珍しいズームレンズ、シネレンズ、監視用テレビカメラレンズなどの激レア品が出てきたのには驚きました。Tevidon なんて初めて聞いたし。フレクトゴン、ビオメター、テビドン…イエナのレンズ名に円谷作品に登場する怪獣っぽさを感じてしまうのは何故なんだろうか。
ツァイス・イエナ以外にも「それが読みたかった!」的な特集がありました。α7 IV とライカ M11 での広角レンズ比較。α7 シリーズは世代を経るごとに広角オールドレンズとの相性が改善しており、α7 IV では平凸フィルターを用意しなくても G Biogon 28/21mm がそれなりに使えてしまう模様。ただライカ M シリーズは以前からイメージセンサーのカバーガラスが比較的薄く、こういったテレセントリック性の低い広角オールドレンズでの描写が良いんですよね。本特集でも全体的に M11 のほうが良好な結果が出ていますが、α7 IV もかなり健闘しています。価格差も考えれば α7 IV で良いんじゃないでしょうか(笑
この特集も面白かった。「~ar」「~on」などのいかにもレンズ名というネーミングではない名前がつけられたレンズ特集。大手光学メーカーはほとんどがライカやツァイスに倣って「レンズらしい名前」をつけているのに対して、主に海外の販売店や通販業者が独自に商品化したレンズはそのルールに則っていないものが多い。しかもそれらの多くは当時の日本の交換レンズメーカーの OEM 供給を受けていたものが多い…というお話。↑なんて当時のシグマが「スピラトーン」のブランド名で出していたミノルタ MC マウント互換レンズですよ。使ってみたくないですか。
じっくり読んだら久しぶりにオールドレンズが楽しくなってきました。イエナのレンズは随分昔に買った MC Sonnar 135/3.5 しか持ってないけど、改めて Flektogon が欲しくなってきたなあ。ただ、イエナのレンズは多くが一眼レフ用の M42 マウントなので、ミラーレスで使うとマウントアダプターの厚みが出て取り回しが悪くなってしまうんですよね…。でも自分の指でピントリングを回すあの感じが恋しくなってきたし、少しの間 AF レンズを封印して撮影に出てみますかね。
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