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運び屋 @T・ジョイ PRINCE 品川

『グラン・トリノ』以来約十年ぶりとなるクリント・イーストウッドの監督兼主演作品を観てきました。

運び屋

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監督としては毎年のように新作を発表し続けている一方で、一度は『グラン・トリノ』で俳優引退宣言をしたイーストウッド、『人生の特等席』以来二度目の俳優復帰(笑。

本作は五年前に新聞記事となった実際の事件をもとにしたフィクションです。90 歳の老人がメキシコの麻薬カルテルの運び屋として働いていた、という話。来年には 90 歳を迎えるイーストウッド自身がこの悲しい運び屋を演じています。

退役軍人であり、除隊後は園芸家として働いていたアール・ストーンは、家庭を顧みずに仕事に打ち込むあまり妻や娘と事実上の絶縁状態にあり、彼に心を開いていたのは唯一孫娘だけ。かつては仕事で成功していたアールも、時代の変化に伴って仕事が立ち行かなくなり、生活に困窮し始めます。しかし孫娘の結婚資金を出してやりたいという一心で始めた「運び屋」稼業が思いのほかうまくいき、金を稼ぐことで失った家族や仲間との関係を取り戻せる…と考えてどんどん深みにはまっていきます。そのうち自分がしている仕事のヤバさに気がついてももう後戻りはできない。最後に改めて「仕事か家庭か」の二択を迫られたときに、彼が選んだのは…というお話です。

というあらすじだけ書くとサスペンスっぽい印象を受けますが、上映時間の半分は「頑固じじいがマイペースに運び屋の仕事をやって、それにマフィアが振り回される話」。当初は予定通りに荷を運ばなかったら殺すと凄むようなチンピラやマフィアのボスも、いろいろ寄り道しながらもうまく警察を巻き、しっかり仕事を全うするアールにみんなほだされていきます(笑。シリアスな話のはずなのにどこかコミカルな描き方は先日観た『グリーンブック』に通ずるものがあって妙に和む。イーストウッド映画といえば重いテーマの作品が多くて元気がないと観れないものですが、これは肩肘張る必要のない、むしろ癒やし映画かもしれません。荷台に億単位の麻薬を載せて鼻歌交じりに走って行くイーストウッドがやけにかわいい(笑。


とはいえ「頑固で家族との距離の取り方が分からない不器用で孤独な老人」というキャラクターは、近年のイーストウッド主演作品に共通するもの。観れば観るほど、これは 90 歳の運び屋の話ではなくイーストウッド自身の家族に対する贖罪の物語なのではないだろうか?と思えてきます。本当に最近のイーストウッドは監督作では史実ものばかりだし、主演作は自身を投影したかのような役どころばかり。で、本作は監督兼主演だから(以下略。でも自分にも微妙に心当たりがあるように取り戻せない家族との時間をカネやモノで埋めようとしてしまうのは、彼に限らず働く男の悲しい性なのでしょう。
ラストシーンは必ずしもハッピーエンドではなかったかもしれませんが、アールの満足げな表情を見る限り、彼にとっては最後に家族との心の距離を埋めることができたことは幸せだったに違いない。

個人的にはイーストウッドがどことなく亡くなった祖父を思い出させるというのを以前書いた気がしますが(まああんなにカッコ良くないけど)、シャレや皮肉好きで、麦わら帽子で畑仕事に勤しむ姿やキャップと作業着みたいなブルゾンを纏ってトラックを乗り回す姿が生前の祖父と完全に同じで、スクリーンを見つめながら何度か涙がこぼれてきてしまいました(笑。妻子との距離感や孫を喜ばせるのに必死になる姿が本当に一緒なんだよなあ。

クリント・イーストウッドの監督作も主演作も、毎回「これが見納めになるかもしれない」と思いながら映画館に足を運んでいるわけですが、こんな「人生の最後に、何をもって幸せだったと言えるか」というテーマの作品を見せられると、本当にこれが遺作になってもおかしくないと思ってしまいます。でもこれからも一年でも長く元気に過ごして、また映画を作り続けてほしい。なんか勝手に孫目線で応援してしまっている自分がいます(笑。

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