終劇。
月曜日についに公開された完結編『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』。緊急事態宣言の延長を受けて首都圏の映画館は 20:00 閉館前提で上映スケジュールを組んでおり、さすがに平日の鑑賞は厳しいから週末に映画館に行こうと思っていました。が、週末までネタバレを防ぎきる自身がちょっとなかったのと(Twitter のワードミュート機能が正常に動作していないっぽい)、今日たまたま調整可能な時間ができたのでムリヤリ行ってきました。劇場はもちろん私のホームである品川の IMAX スクリーン。
1 月公開予定から延期されていたこともあり、事前にテレビシリーズ・旧劇場版を一通りと新劇場版序・破・Q を何度か復習して臨みました。テレビシリーズの終盤と旧劇、それに Q は初見では「自分は一体何を見せられているんだ」という気分だったものですが、今ではそれぞれをそれなりに消化・理解できたことで、『シン』でも事前の期待を全く裏切られることになるかもしれないし、何が出てきても絶対驚かないぞ…という覚悟でした。
実際に蓋を開けてみると、中盤までの大まかな流れは予告映像からある程度予想される展開の範囲内。さすがにディテールまでは想像できませんでしたが、主に『Q』の流れの対比を取るような展開で進みます。『Q』では 14 年の眠りから覚めたシンジが大人たちから拒絶され、唯一心を寄せたアヤナミレイ(仮称)にも半ば無視されて孤独を感じていったのに対して、『シン』では心を閉ざすシンジに対して「大人たち」がとにかく暖かい。そして今度はシンジとアヤナミの関係性が逆転するわけです。尺をとって丁寧に描かれるこの序盤のシーン、今までの『エヴァ』ではほぼシンジとその周囲の人々のセカイしか描かれていなかったのに対して、本作ではシリーズ史上初めて主要キャラと他の人々の社会的繋がりを感じられる、実にリアリティある場面だと思いました。ここでの描き方がクライマックスでの虚構と現実の対比への伏線になっているようにも感じます。
それにしても本作は『エヴァ』としては信じられないほどに伏線の回収が見事で、Q までに足りていなかったパズルのピースがどんどん埋まっていきます。「あの人がその後どうなったのか」「破~Q に至る 14 年間に何が起きていたのか」など、今まで考察や妄想するしかなかった部分の多くがきっちり描かれています。思いがけないキャラクターが登場するたびに目頭が熱くなるし、いろんなキャラクターの伏せられていた本心が吐露されるごとに泣ける。特に Q でシンジとカヲル以外の登場人物の心情がほとんど描かれなかったことは、本作でカタルシスに至るための伏線だったことが解ります。
そしてクライマックス。急激に抽象的な世界観に突入するため、案の定「自分は一体何を見せられているんだ」という気分に一瞬なりかけました。しかし見方を変えてみるとこれはテレビ版の第弐拾伍話・最終話や旧劇場版の終盤をもう一度描いているんだ…と考えると理解できました。そしてそのためのサブタイトル『THRICE UPON A TIME』なのでしょう。映像的にも、テレビ版や旧劇で植え付けられたある種のトラウマを解消する形で上書きしに来ているのも印象的でした。
また終盤で表現された碇ゲンドウの内面も、ここまで克明に描かれるのはシリーズ中で初めて。年齢的にはとっくにシンジよりもゲンドウのほうが近くなっている私としては自分との比較で見てしまうわけですが、人の親になってまでこういう心境でいられるというのはいくらなんでも気持ち悪いな、と(笑)。だからこそ、最終的に精神性で父を超えていくシンジの成長が際立つわけです。だって、旧シリーズも含め何度人類の補完が行われてもそのたびに「他者との関係性の中で初めて存在し得る自己」に意味を見出せる碇シンジという人間、改めて考えるとすごくないですか。旧作では「自分は赦された、これでもいいんだ」という感じだったのが本作では「こうありたい」という明確な意志を持って終局に挑むから、なおさら説得力を感じます。
結末は賛否両論あるでしょうが、主要な登場人物それぞれが自分の想いにそれなりの決着をつけられたことで、個人的にはスッキリしました。今まで同じループに含まれるか否かの議論があった貞本版エヴァはパラレルワールドであったことが改めて確定的になったわけですが、希望が持てる終わり方という意味では両方とも良いラストだったと思います。
観てしまった今となっては完結したことに対する安堵感と、終わってしまったことに対する淋しさが同居する複雑な心境です。25 年近く付き合ってきた作品が終わるというのはこういう感じなんですね…。
とはいえもうちょっと反芻して理解を深めたい部分や、興奮してしまってディテールが見えていなかった部分もあるので(笑)あと二回くらいは映画館に足を運ぼうと思っています。
とにかく今は庵野総監督をはじめ制作に関わった方々、この COVID-19 の状況下で無事の上映に尽力した方々にお疲れさまでした、ありがとうと言いたいです。しかし一方で破~Q の間の 14 年を改めて映像化してみてほしいという気持ちも湧いてきていたり。今後の興行成績如何でそういう話、出てきませんかね。
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