先日銀座をブラついていたときのこと。銀座一丁目の商業ビルの狭間に、こんな店を見つけました。
マロニエゲートの裏手あたり、いかにも銀座らしい高級店が立ち並ぶ隙間の袋小路。銀座は昔からよく来る街だったけど、こんなところがあったとは。ここだけ銀座ではないような、周囲とは時間の流れが違うような、不思議な空気が漂っています。
この佇まいは普通じゃない。自分の嗅覚も、この店はぜったいうまい店だと言っています。時はまさにお昼。これはもう、完全にジャケ買いならぬ「ジャケ食い」だと思い、惹かれるがままに入ってみました。
内装は想像に比して新しめ。でも壁一面に貼られた木札のメニューとか、暖簾越しの厨房の感じとか、求めてたのはこういうやつですよ。
状況が許すならば、この長テーブルに仲間うち三人くらいで座っていろいろつまみながらビールとか日本酒とかをやったら絶対楽しいだろうなあ。そういう昔ながらの大衆割烹感。
この大量のお品書き。メニューの袋小路にはまってしまいそうだ。
基本的に魚介の品揃えがいいらしい。いろんな素材を煮たり焼いたりフライに唐揚げ、なんでもござれ。この木札を眺めているだけで楽しい。定食系は千円からという銀座価格だけど、それでも立地を考えたら良心的にさえ思えます。
迷ったらコレ的な抜粋版定食メニュー。ぶり刺が天然というのに強烈に惹かれるけど、北陸民的には今はぶりの季節じゃない。アジ、いわし、カツオのどれを叩こうか…ん、銀ムツ?銀座で銀ムツってのも乙なもんじゃないの。よし、これにしよう。
注文を済ませると、ほとんど待たずに定食一式がやって来ました。厨房、常にスタンバってるっぽい。
主菜に汁に白飯、どれも器が想像より一回り大きい!これは食べ応えありそうだ。
さあ、いただきます。
こちらが味噌汁代わりの鳥豆腐。鳥豆腐って何かと思ったら、湯豆腐に鶏肉を加えたものというか、水炊きから野菜を抜いたようなものというか、そんな感じなんですね。
私が頼んだ銀ムツ煮付定食にはランチタイムは鳥豆腐がセットになっていましたが、常連さんっぽい人の注文を聞いていると他の定食に追加料金を払って味噌汁を鳥豆腐に変更することもできる模様。それくらい、この店ではこの鳥豆腐が名物なんですね。
プリッと弾力がありつつも柔らかい鶏肉と、その旨味が全部出た出汁、それらを受け止めた豆腐のどれもがうまい。これぞ「滋味」と呼びたくなるあっさりしたやさしい味。春菊の苦味と香りも良いアクセントになっています。
これはいくらでも食べられそうだし、毎日でも食べられる。それくらい普遍的なおいしさがあります。
続いて銀ムツの煮付。二人前くらいありそうな大ぶりの銀ムツと一緒に煮込まれた牛蒡。この見た目だけでもう満点なわけです。
そうそう、今日はこういう食べ応えある煮魚をガッツリいただきたかったんですよ。
脂の乗った銀ムツ、口の中でホロホロと崩れる。しかも煮汁が十分にしみていて、期待を上回るうまさ。これはおいしい!
普通盛りサイズでも一般的な大盛りはありそうな白飯が、この煮付と鳥豆腐でみるみるうちになくなっていきます。ご飯多いかもと思ったけどむしろ足りないくらいでした。
いやー、本当においしかった。銀座の袋小路にこんな店があったとは。
雰囲気といい、メニューといい、味といい「銀座だからって気取らなくても、気負わなくてもいい」と言ってくれているようで、気持ちを緩めて食を楽しむことができました。
ここ、立地、雰囲気、料理のレベル、どれをとっても『孤独のグルメ』に登場してもおかしくない店じゃないでしょうか。いつか取り上げられたとしても私は驚きませんね。
今までは銀座でランチというとあるでん亭のスパゲティかはしごのだんだんめんか、くらいしかレパートリーがなかったけど、今後はここも間違いなく選択肢に加えようと思います。刺身とか唐揚げも食べてみたいし、冬場はきっとカキフライなんかもおいしいに違いない。
ごちそうさまでした。
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