本日公開の『ククルス・ドアンの島』を観てきました。
それも初日舞台挨拶回に当選。私は運がいい…。安彦良和監督とアムロ・レイ役の古谷徹氏のトークを拝聴する機会に恵まれました。
舞台挨拶の話を最初にちょっとだけすると、本作は「安彦良和が撮る最後のガンダム作品」という触れ込みでしたが、「もううんざり」とか「これで引退すると決めた」というよりは年齢的にもうこれが最後になるでしょう、というご本人の自然な意向なのだとか。ご本人的にはもうこれで思い残すことはない、他にリメイクしたいエピソードもないとのことでしたが、個人的には「時間よ、とまれ」「大西洋、血に染めて」「小さな防衛線」あたりのリメイクも見てみたい。でも劇場版三部作ではカットされていて掘り下げ甲斐のあるエピソードという点でこの「ククルス・ドアンの島」がリメイクにちょうど良かったのでしょう。
古谷徹さんは(今までも何度か舞台挨拶等に行く度に感じるのですが)とにかくサービス精神が旺盛で、自発的に劇中のセリフを言ってくれるのが嬉しい。でも乱発しすぎてこの人本当は若井おさむなんじゃね?と思う瞬間も(ぉ。曰く「ガンダムではシャアの方が主役というくらいにカッコ良く描かれているしシャア専用グッズもたくさん発売されているけど、本作ではアムロのカッコ良さ、可愛さ、優しさ、強さを感じてほしい」とのこと。挨拶の最後には「もっともっとアムロを演じたい、1 話から 43 話までもう一度やりたい」と言いつつ涙ぐむ場面もあり、本当にこの方のガンダム愛の強さが伝わってきました。OVA『THE ORIGIN』のスタッフ/キャスト的には一年戦争編が作れなかったことが本当に心残りだったようですが、仮に安彦監督でなかったとしても近い将来に一年戦争編のリメイクが作られることをいちファンとして願っています。
ということで、映画本編。早くも賛否両論分かれているようですが、私は好きでした。
アムロがドアンの島を訪れる経緯、その島にジオン軍が攻めてくる理由などの設定がちゃんと強化されつつ、ドアンや島の子どもたちとの交流を通じてアムロが人間的に成長していく様子が丁寧に描かれていました。作中でアムロに直接的に影響を与える(ホワイトベースクルー以外の)大人ってランバ・ラル、ククルス・ドアン、マチルダさん(マチルダさんだけはどうしてもさん呼びしてしまう)とウッディ大尉くらいなんですよね。そういう貴重なオジサン枠であるドアンの掘り下げ具合はとても良かった。
ちなみにククルス・ドアンの島がモロッコ南西に実在する島であることが話題のようですが、ホワイトベースが通ったルートを考えると本来のアニメ版ククルス・ドアンの島は太平洋上にあるはずなので、大西洋のアフリカ付近に設定変更されているということは本作はホワイトベースのルートが見直されたコミック版『THE ORIGIN』の世界線ということになります。この時間軸でスレッガー中尉がホワイトベース所属になっていることからも、北米から直接ジャブローに立ち寄って(ここでスレッガー隊補充)オデッサに向かうルートを採っていることが分かります。
■良かった点
- アムロ。四十年経ってもアムロだった。シャアの声は近年もう厳しいなと感じるけどアムロはまだまだアムロ
- モビルスーツのアクション。セル画に見える CG の技術もここまで来たかという驚きがある。CG なのにガンダムの動きが人間的なのも良い。ただザクのくせに機敏に動きすぎで、ちょっとやりすぎではと感じる部分も
- 序盤を過ぎるとガンダムが登場しない時間が長いが、その分再登場する場面での高揚感がすごい。大勝利間違いなしの爽快感、一方でジオン視点ではまさに「白い悪魔」。最後に颯爽と登場して無双するさまはまるで時代劇。ああ、ガンダムっておっさん向けの時代劇だったのかという発見があった(笑
- スレッガーの動かし方がうまい。カイやハヤトをそそのかしてアムロ捜索の算段を立てる場面で、加入直後のはずのスレッガーが早くもホワイトベース隊との信頼関係を築いているのが理解できる。アニメ(特に劇場版)だと加入後はサイド 6 でのミライとのエピソード以外で他のクルーとの絡みが少なく、関係性が見えにくかったからこの改変は嬉しい
- マ・クベ。めちゃくちゃ良い。故・塩沢兼人氏の演技を引き継ぐような山崎たくみ氏の芝居が素晴らしい。また一筋縄ではないキャラクターもうまく描かれている。マ・クベって子どもの頃は単なる卑怯な敵キャラだったけど、大人になって見ると(特に漫画版『THE ORIGIN』での描かれ方は)人間性に奥行きがあって良いんですよね。それを凝縮して映画の中で表現したようなキャラになっていた
- キッカの声。カツとレツも悪くなかったけど新井里美氏が演じるキッカの声(実はミライとハロも含めた三役を演じている)が完全にキッカだった。ちなみにオリジナルのキッカは故・井上瑤氏(セイラとの二役)
- ドアンが養育する子どもたち。テレビ版よりも大幅に人数増なのにそれぞれに性格が違うのがちゃんと見えて、かつ写ってないシーンでも画面外からそれぞれのキャラらしい声が聞こえてきてすごく生活感がある
- ドアン。劇中ではずっといかにも脱走軍人的な鋭い目つきだったのが、ED の安彦先生の一枚絵で相好を崩している顔がとても良い
- 劇伴。『THE ORIGIN』から服部隆之氏が続投していて雰囲気が完全に『THE ORIGIN』だけど節目節目でテレビ版の劇伴アレンジを挟んでくるのがニクイ。『跳べ!ガンダム』のアコースティックアレンジが流れてくると泣いちゃう
■惜しかった点
- 戦闘シーンにおけるホワイトベース隊の扱い。アムロとドアンの活躍に焦点を置きたいからだろうけどカイもハヤトもあまり見せ場なくやられてしまうのは寂しい。一応スレッガーとセイラには見せ場はあったし、ジョブ・ジョンがメイン扱いになっていたのはちょっと嬉しかった
- サザンクロス隊。バトル的に見せ場はあるし、メンバーそれぞれにドアンとの因縁が設定されているわりにあまり活かされていない。もうちょっとその辺の絡みが欲しかった
- テンポが悪く感じるシーンがちらほらある。同じ四十年ほど前の作品の焼き直しでも現代的なテンポ感で話が進んでいく映画を先週観たところだから落差が大きい。個人的には(『THE ORIGIN』のときからそうだったけど)多用されているズームイン/アウトの演出が間延び感を強めている印象
劇場物販では先行発売の Blu-ray(通常版)とパンフレット(初回限定版)を購入。BD は限定版と迷ったけどハサウェイの前例からどうせ数ヶ月後に UHD BD が発売されるだろうし…と考えて手が出ませんでした。
ところで、どうせ当たらないだろうと高を括って初日と日曜日の舞台挨拶回の抽選に申し込んだところ両方とも当たってしまいました(笑。というわけで、BD がもう手元にあるけど明後日もまた観に行ってきます…。
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