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おくやみ:出井伸之氏

ソニー元社長の出井伸之氏が逝去 – AV Watch

昨日はちょっとショックが大きくて気持ちの整理がつかずにいたのですが、一日経って落ち着いたのと水を向けられたので、ソニー元会長兼 CEO の出井伸之氏逝去に寄せてエントリーをしたためてみます。

まず、今この時点で出井さんの功績を最も正しく、かつ愛をもって表現した文章は Forbes Japan に寄稿されていたこの記事ではないでしょうか。

【追悼 出井伸之氏】『過去30年で最も重要なリーダー』日本取締役協会 冨山和彦
私にとって出井さんは、経営共創基盤(IGPI)設立した時の大恩人。マネックスも、ISAKも同じように出井さんのサポートあっての今ではないか。つまりは、出井さんは、なにか新しいことをやろうとする若者を、いつも一番最初に本気で応援してくれる方だ

1990 年代後半にデジタルとネットワークに可能性を見出し、ソニーをメカトロの会社からデジタルの会社に変えたのは他でもない出井さんでした。VAIO、CLIE、AIBO、Qrio、CoCoon といったデジタルやネットワークを前提とした製品やサブブランドが多数登場したのも 1995~2005 年の出井ソニー期。今ではそれらの事業の多くは過去のものとなっていますが(aibo はその後復活したけど)、デジタルの価値観を世の中に定着させたことは事実だし、ソニーという会社のものの作り方やオペレーションをデジタルや水平分業の時代に向けてアップデートしたことも大きな貢献と言えます。当初はカリスマ経営者と呼ばれつつ 2003 年の「ソニーショック」以降は必要以上のバッシングを受けていた印象でしたが、あの 1995~2005 年を経ていなければソニーも今ごろ他の国内家電メーカーと同様の状況に陥っていた可能性は高いと思っています。

私の知人関係には出井さんと直接親交のあった方が何人かいますが、彼らが口を揃えて出井さんの先見性の高さを称えていたのが印象的でした。1995~2005 年頃に商用化したけど時代を先取りしすぎていて、撤退後に十年経ってから他の企業が同じようなコンセプトの製品/サービスを成功させた例は枚挙に暇がなく(笑)、
当時の経営陣に足りなかったのは「時が来るまでやり続ける我慢強さ」だけだったのでは、と今でも思うほど。写メールもスマートフォンも YouTube も原型はあの時代にあったんだよなあ。まあ、どんなに新しいものも普及しなければ単なる発明で、適切な時期に適切なやり方で世の中に普及させてこそ「イノベーション」なので、後にそれらの製品やサービスを普及させた企業には同様のリスペクトを持っているわけですが。

R.I.P.

私は出井さんとは面識はありませんが、二、三度直接拝見する機会はありました。↑は 2013 年の東京カメラ部一周年記念パーティーにお招きいただいたときのものです。

私が大学生だった 1996~1997 年頃に相次いで Cyber-shot や VAIO(どちらもブランド起ち上げのタイミングだった)と出会い、それらの製品を手にしたことが人生の転換点だったと言えます。当時上京してきて人生の自由度が大きく広がったのと、コンピューターとインターネットに触れてその可能性を感じたのとほぼ同時期でした。モバイルコンピューティングとインターネットにこそ未来があると信じてから 25 年。今の自分の人生はあの頃に築いた人間関係から広がっていったものだし、直接お話ししたことはなくても出井さんがいなかったら自分は今ここにこうして生きていないはず。もともとメカ屋になって自動車業界を目指すつもりで大学に入ったのが、180° とは言わないまでも 90°+45° くらい方向転換して今に至るわけです。具体的にどれくらい人生を変えられたかは、私との付き合いが長い人であればよく分かるはず。

バブルが崩壊して日本の経済が長い停滞期に入っても、2000 年代くらいまでは IT やデジタル関連の市場には活気がありました。当時は、北米のコンピューター企業の巨人たちと日本のものづくりが切磋琢磨しながら未来を作っていくのだと思っていました。残念ながら現在はそうなってはいないのですが、あの時代があったからこそ日本は(終わりかけているのかもしれないけど、まだ部分的に)持ち堪えられているのだと思います。

「貧すれば鈍す」というように、苦境の中で種籾に手をつけてしまっているのが今の日本の状況だと思っています。でも 1995 年当時の日本の状況も大概だったと思うけど、そんなときにひたすら未来のことを考えていたのがあの頃の出井さんだったのではないでしょうか。目の前の事象だけに囚われず抽象化して物事の構造を捉える思考力と、時代の変化を機敏に捉える先見性。こういう時代だからこそ、出井さんの経営からは学ぶものが大きいと思うのです。苦しいからって、未来のことを考えるのをやめてしまってはダメなんだ。

この散文をもって追悼の言葉に代えさせていただきます。
ご冥福を心からお祈りいたします。

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