山本雅史氏の『勝利の流れをつかむ思考法』と同時期に出版された第四期ホンダ F1 に関する書籍を読みました。
NHK の BS1 スペシャル取材班が同番組の取材を通じて得た内容を書籍としてまとめた一冊です。内容的には BS1 スペシャルで放送されたものとほぼ同様ですが、複数回にわたって放送された番組を一冊の本として、第四期 F1 を総括するものになっています。2015 年のマクラーレン・ホンダ時代からトロロッソ・ホンダへのスイッチを経て、レッドブルとの共闘の果てに 2021 年にドライバーズチャンピオンを獲得し「撤退」に至るまでを、主にエンジニアリング視点からまとめたドキュメンタリー。
マクラーレン・ホンダの失敗は日本人視点だとどうしてもマクラーレンを悪者にしてしまいがちですが、本書では「そもそもホンダの技術力が足りていなかった」と認めた上で「お互い(ホンダとマクラーレン)が相手をプロフェッショナルとしてリスペクトした結果、それぞれで最高のものを作って組み合わせれば良い」というスタンスで臨んだためにコミュニケーションが疎かになっていた」としています。またマクラーレンの現場の技術者に関しても、ホンダのエンジニアとの関係は良好であったと書かれています。まあ実際のところ相手方に配慮した表現をしている部分はあるのでしょうが(笑)これが実態ということなのでしょう。その反省をふまえ、ある程度技術的な蓄積ができた段階でトロロッソやレッドブルと密なコミュニケーションを取るようになった結果が 2021 年に結実したのだと思います。その意味で、マクラーレンとの三年間の苦闘はチャンピオン獲得に必要な課程だった…と今は思っています。
本書では第四期ホンダ F1 の技術面での顔であった浅木泰昭氏(パワーユニット開発責任者)と田辺豊治氏(テクニカルディレクター)をはじめとして多数のホンダ技術者のインタビューが掲載されています(↑の写真は先日の日本グランプリで開催されたトークショーでの浅木さんと田辺さん)。当初は F1 プロジェクトチームだけで開発していたパワーユニットが、航空機部門や二輪部門を含むホンダ全体を徐々に巻き込んで「オールホンダ」と言えるパワーユニットに進化していくくだりには胸が熱くなります。こういう『プロジェクト X』的なドキュメンタリーを作らせたら NHK の右に出る者はないですね(笑。でもボトムアップで改善を積み重ね、最後には夢を実現するストーリーこそが日本企業らしいところでもあります。
昨年のドライバーズチャンピオンに続いて今季レッドブル・ホンダ(表向きは HRC として支援している体裁にはなっているものの)が念願のダブルチャンピオンを獲得した今だからこそ、現行レギュレーション下で最強のパワーユニットがどう創られていったかを読む価値があるのではないでしょうか。山本氏の『勝利の流れをつかむ思考法』、尾張正博氏の『歓喜』と三部作で読みたいドキュメンタリーだと思います。
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