こちらの映画を鑑賞してきました。
ラッパーがプロの声楽家に才能を見出され、ひょんなことからオペラに挑戦する映画。この設定を聞いただけでそれ絶対面白いやつじゃん!と映画館に足を運びました。
兄とともにフランスに移民した若者・アントワーヌ。地下の賭け決闘で稼ぐ兄に養われながらパリの経理学校に通い、夜はラッパーとしてラップバトルで戦い、自分たちのシマを守っていた。ある日、アルバイト先のスシバーの配達でオペラ座にある国立高等音楽院を訪れ、そこで学生とちょっとした口論になった行きがかり上でオペラの物真似をしてみせたところを教師のロワゾー先生に見られ、その才能に惚れ込んだロワゾー先生から半ば強引にオペラの道に引きずり込まれ…というお話。
ラッパーが大真面目にオペラに取り組むギャップがまず面白ポイントではあるのですが、オペラアリアが流れたと思ったら次の瞬間にはヒップホップ、そしてまた次のシーンではオペラ…という落差の激しさも面白さのひとつ。トゥーランドットと 2PAC が同じ映画の中で共存するなんて考えられないじゃないですか。
ちなみに主人公アントワーヌを演じているのはプロのヒューマンビートボクサーである MB14(Mohamed Belkhir)。私はフランス語のラップは初めて聞きましたが、英語や日本語のラップと比べても韻の踏み方がなんか詩的に聞こえる(笑。そしてオペラパートも自分で歌っているというから驚きます。
そんな感じでコメディチックにわちゃわちゃ進んでいくサクセスストーリーかと思ったら、意外にもアントワーヌの葛藤もしっかり描かれていました。移民として貧民街に住み苦学生でもあるラッパーと、上流階級の文化であるオペラと国立音楽院。本来ならば相容れることのない文化とコミュニティの狭間で、本心ではオペラに惹かれながらも家族や仲間の手前本心を言い出せずにいる。音楽院でレッスンを受けながらも経理学校を辞めることもできず、過負荷に陥ったアントワーヌは結局どちらもうまくいかなくなり…というのは見ているこちらも「おいおい、そりゃちょっと無理しすぎでは」と思ってしまいました。まあ最終的にはベタベタな展開で期待通りのオチに持って行ってくれるわけですが、個人的にはこういうベタな脚本嫌いじゃないです。そもそも「ラッパーがオペラ」というとっかかり自体がマンガ的なんだから、多少デフォルメされていても分かりやすい展開が気持ち良い。
パリ国立高等音楽院が作品の主な舞台ということで、あのオペラ座の中で本格的なロケが行われています。聞くところによるとオペラ座での撮影許可を得るために数年がかりの交渉を行ったそうですね。でもその甲斐あってオペラ座関連のシーンは絢爛な映像に仕上がっていて、先日『岸部露伴 ルーヴルへ行く』でもっとルーヴルやパリの素晴らしい映像を見たかった…という思いをこちらの映画が代わりに果たしてくれたかのようでした。オペラ座の映像が美しいだけでなく、フランス映画らしくカット割りや映像の作り自体が芸術的。
欲を言えばオペラの歌唱シーン(練習やオーディションではなく本番)をもっとガッツリ見たかったし、音楽院でのライバルや恋人(?)関係、そしてロワゾー先生がその後どうなったか…などもうちょっと見せてほしかった部分はあります。でもそれをやると冗長になりすぎるだろうし、100 分程度の尺の中で主題をシンプルに描きたかった意図も解るので、あとは脳内補完するしかないですね。
ちなみに GAGA 配給ということで公開規模は小さく上映館が限られるのと、川崎では公開一週間後にも関わらず既に一日一回に上映回数が絞られているのが残念。大作ではないけど娯楽作品としてもっと注目されて良い映画だと思います。
個人的にはフランス映画には今まで苦手意識があったのですが、こういう手触りのフランス映画もあるんですね。類似作があるならもっと見てみたいと思いました。
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