Netflix で一昨日配信開始されたアニメ『PLUTO』。観始めたら面白すぎて三日で全部観てしまいました。
元ネタは手塚治虫『鉄腕アトム』の 1 エピソードである「地上最大のロボット」。それを浦沢直樹がリメイクした漫画『PLUTO』のアニメ化です。私は手塚世代ではないし『PLUTO』も気にはなりつつ読んだことがなかったので、アニメで初体験。手塚治虫×浦沢直樹なら面白くないわけがない。
ちなみに『鉄腕アトム』の当該エピソードが Kindle の試し読みで冒頭部分だけ読めたので見比べてみたところ、『PLUTO』は基本的なプロットは忠実に踏襲しつつ大幅に補間して物語の厚みをもたせた作品にリメイクされていることが判ります。
アトム。言わずと知れたヒーローですが、物語序盤には登場しないので出てきた瞬間にはちょっと感激しますね。作品の世界観に落とし込んだときに違和感がないよう施されたリデザインも秀逸。頭のツノは癖っ毛として表現されています。
人類を守るスーパーヒーローというよりは、ロボットの苦悩を引き受ける役割として描かれているのが印象的でした。
本作は本来の主人公アトムではなくドイツのロボット刑事:ゲジヒトの視点で描かれます。世界最高峰のロボットの一人であり、彼がロボットと科学者の連続殺人事件を追う形で進行するミステリー形式で物語が進んでいきます。個人的にはアトム視点の話だったらここまで没入できなかったかもしれないので、大人向けの作品としてはこの構成は素晴らしいと思います。さらに、本来はドライに事件を解決していく敏腕刑事ロボットのはずなのに、今回の事件を通じて深い苦悩に陥っていく…というくだりも秀逸。
第 1 話に登場したロボット:ノース 2 号(CV:山寺宏一)。スコットランドの古城で天才音楽家の執事として働くことになった元軍事ロボットです。このノース 2 号と作曲家ダンカンが徐々に心を通わせていくエピソードが素晴らしかったなあ…。序盤にノース 2 号のエピソードを通じて「人間とロボットが心を通わせるとはどういうことか」の解像度が高まることでその後の話の深みが全然違ってくる。個人的には本作の全てのエピソードの中でこのノース 2 号の話が一番好きだったほど。Netflix を契約しているなら第 1 話だけでも観ておかないと損、と言って良いと思います。
作品としては、「鉄腕アトムとは何か」みたいな説明が何もない状況からいきなり始まるから前提知識がないと入っていくのが大変かもしれません。まあ鉄腕アトムを知らなくても解るようには作られていますが、ある程度 SF の予備知識が求められる印象。でもそれを乗り越えたら重厚なミステリーと壮大なテーマが待ち構えています。「心」とは何か、ロボットが心を持つというのはどういうことか。AI が急激に進化し、対話型 AI にあたかも感情があるように見える今だからこそ伝わるメッセージがあるように思うのです。アクションシーンもあるけど、何より会話劇が素晴らしかった。
アニメ作品にしては珍しく、1 話 60 分×8 話=合計 8 時間という大作です。でもこれが 30 分ずつの細切れだったらこの重厚さは出なかったろうなあ。原作(手塚・浦沢両氏の)の素晴らしさあってのものだけど、映像も音楽も芝居も原作の良さを十分以上に引き出していると思います。
複雑なストーリーで、一回目では見落としている演出や後から見たら意味が分かるシーンもいろいろありそうなので、もう一度くらい観たいところ。Netflix 未契約でもこの作品だけのために単月契約する価値はあるのではないでしょうか。
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