夏休みで金沢に帰省していました。
ここ 5~6 年はさまざまな事情により慌ただしい感じでの帰省しかできていなかったので、今年は本当に久しぶりにゆったりと帰ることができました。だからこそ今回は今までにやったことのないこともやってみよう、というのが自分としての裏テーマ。そのうちの一つとして時間を作って金沢港まで行ってきました。金沢港は金沢駅からバスで 30 分くらい(自家用車だともっと早い)という距離にも関わらず今まで行ったことがなかったんですよね。
金沢港は貿易港でありクルーズ船が寄港するターミナルでもありつつ、漁港としての役割も持っている多目的港。漁港だから魚市場もあるようですが、一方で一般客向けに「金沢港いきいき魚市」としても営業しています。金沢の市場としては今や観光名所の一つとなった近江町市場のほうが圧倒的に規模は大きいものの、近江町市場は魚介だけではない総合市場でありつつ、魚介は北陸近海に限らず全国から食材が集まってきているのに対して、金沢港いきいき魚市は漁港直結だけあって石川県産の魚介が中心。こんなものも近海で獲れるのか、という発見もあってなかなか楽しい。
でもここに来た真の目的はこちらのお店でした。
市場内で営業する立喰い鮨の店「優勝」。私の友人である @blogucci さんが以前北陸旅行した際に立ち寄った店として紹介されていて、あまりにもおいしそうだったため私も帰省のタイミングで食べに行ってみたいと思っていたのでした。正直言って、今回の帰省で親の顔の次くらいに楽しみにしてたと言っても過言ではない(笑
45 分単位での完全入替制につき飛び込みで入れる自信がなかったので一休.com で予約して訪店しました。
立喰い鮨ということでカウンターのみで原則椅子なし、というストイックなスタイル。7~8 人も入れば満員という狭い店舗ですが、隣のお客さんと肩触れ合うほどではありません。
基本はコース制で、同スロットのお客さんに同じネタを同時に提供することで効率運営するという方式のようです。
私は予約時にあらかじめ「にぎりコース」を注文しておきました。
まずはビールから。鮨屋のビールってアサヒやキリンじゃなくて黒ラベルかヱビスのイメージがあります。
夏休み中だから誰にも気兼ねなく昼酒が飲める喜びと開放感。暑い中港を半周してきたこともあって、染み渡ります。
鮨は下駄ではなく木製のカウンターに直接提供していくスタイルです。
手前におしぼりが指先を拭いやすい形にして設置されているのが気が利いている。箸で食べても良いけど手づかみで食べるのも推奨されているようだし、ここは手づかみでいただきますか。
手始めにアカイカから。細かく入れられた包丁が美しい。
ここの鮨はあらかじめ醤油やタレを塗った状態で提供されるから自分で醤油をつける手間も、つけすぎてしまうミスもありません。カウンターから優しく手づかみでそのまま口に運ぶだけで幸せが訪れます。
イカに細かく入った包丁のおかげで筋張ったところも一切なく、やわらか~い。そして噛むほどに口の中に広がるまったりとした甘さ。これはおいしい。
続いてイクラ。
外皮が固すぎず緩すぎず、ちょうど良いプチプチ感。そして漬かり具合も絶妙。塩気よりもうまみを主軸とした味付けで味覚に沁みる。これ、丼からこぼれるくらいのいくら丼にして食べたいほどおいしい。
そんなタイミングで提供されるあおさ汁。
関東とも関西とも東海とも違う、北陸らしい味噌の味。帰ってきたことをしみじみと実感します。は~、ホッとする。
カウンター越しに板前さんの仕事ぶりを見られるライブ感。端のお客さんから順番に提供されていくので、自分のが握られるのが待ち遠しい。でもこうやって見事な手さばきを見られるのは、食べられるまでの間手持ち無沙汰にならなくて良い。
富山湾の名物のひとつである甘エビ。定番のネタだけど、こうやって尻尾を外してタレをつけて出されるのは珍しい。
甘エビって一般的にはエビそのものの甘さで勝負するところ、ここの甘エビはタレとの一体感があってより濃厚なうまみが出ています。こういう甘エビ、初めて。
これはもう日本酒を飲まずにはいられません。ということで手取川の純米大吟醸「hand in hand」。hand in hand(=手に手を取る)って直訳か(笑
手取川というのは白山を源流に石川県西部を流れる一級河川にちなんだ石川の銘酒。スッキリとした甘みのある上品なお酒で、この店の丁寧に握られた鮨によく合います。
hand in hand を飲み始めたところに、板前さんから手渡しされたこの巻き物はネギトロ。
ネギトロそのものもおいしいんだけど、それ以上に海苔の香りが良い!石川は能登半島で海苔の生産も盛んですからね。ネタと並ぶ二枚看板を張れるほどの海苔、おいしい。
次はヒラメ。そういえば縁側じゃないヒラメって普段はあまり鮨では食べないなあ。
ヒラメらしく程良い食感はありつつも筋っぽくない。脂の乗りも良い。これだけおいしいなら他の店でも縁側じゃないヒラメをもっと食べたいと思ってしまいました。
そしておまかせコースは次第に鮨の核心へと迫っていくわけです。ここで登場するのが鮨の王道、赤身(マグロ)。
そういえばさっき市場で石川県産のマグロが並んでいて北陸でも獲れることに驚いたわけですが、だからこそこの赤身もきっと地元産なのでしょう。
ちょっと漬けっぽくタレが染みた赤身、赤身とは思えないくらい脂の乗りが良くておいしい。これは「日本海側ならマグロじゃなくてブリでしょう」と言っていた自分の見識が恥ずかしくなりそう。
さらに大トロ。
はぁぁ、とろける脂と魚らしい風味。やっぱり大トロは鮨の王様だなあ…。
そろそろコースもクライマックスというところで、このまま食べ終わってしまうのはなんだか惜しい気がして一品料理を追加注文。
アカイカのいしりバター炒めです。シンプルなイカバターに見えるけど能登地方に伝わる魚醤「いしり」を使うことでイカのうまみと深みが格段に増す。イカのワタ煮的なものが大好物な私にとっては、ここまで食べてきた鮨に負けないくらいおいしい。いしり買って帰りたくなりました(金沢駅の土産物屋でも買える)。
こんなおいしいものを立て続けに食べさせられたら日本酒が足りなくなるというもの。ということでこちらも石川の銘酒「五凛」をいただいてみました。折しもパリオリンピックの最終日だったから「五りん」とはピッタリじゃないですか。
先ほどの手取川とは対照的にキリッと辛口。初めて飲んだけど、もともと富山の辛口日本酒が好きな私にはど真ん中ストライクな味で、魚介にもよく合います。
ここで金沢の鮨といえばこれ、のどぐろ。
富山人としては、のどぐろってもてはやされてるし実際においしいけどぶっちゃけブリのほうがおいしいでしょと思っていたのですが、こののどぐろはヤバイ。とろける脂のうまみ、ほろほろとした食感、かるく炙ることによって強調される潮の香り…今まで食べたどんなのどぐろよりもおいしい。これはちょっとブリとはまた違う方向性の頂点を見てしまったかも、と思いました。それくらい感動の味。
コースとしての鮨のラストはなぜかウナギ。回転寿司ではジャンボうなぎが定番メニューだったりするけど、こういうところで出てくるのは珍しいような。それも巻き物というのが面白い。
ウナギ自体はそれほど大ぶりではないけど、パリッとした海苔の食感の直後にウナギの焼き目のカリカリをかすかに感じ、ウナギと海苔の香ばしさが一緒になってやってくる。そこに脂乗りの良いウナギのうまみが追いかけてきて、これまたうまい。ウナギの焼き加減も良いけど、やっぱり海苔がいい仕事をしています。
「プラス 1,000 円でウニを追加できます」と言われたら(単品価格は 1,500 円)、アディショナルタイムに突入せずにはいられません。
新鮮なウニとそれを取り囲む海苔。もはや心は能登半島に行って日本海と一体化している気分。ああ、うまい…。
全体の締めとして出てくるのが玉子焼きというのがうれしい。
甘い味付けでカステラのようにフワッフワの玉子焼き。これは実質的にはデザートですね。
はー、最初から最後まで全部おいしかった。
けっこういい値段するけど、その価値はありました。まさに「優勝」したような気分。
能登半島に行って直接お金を落とすにはまだちょっと早そうだから、自分としてできるのは「食べて応援」が精一杯。こうして能登半島の少しでも近くで、能登半島や富山湾のおいしいものをいただくことがちょっとでも能登の復興に繋がればと思います。能登を応援して自分もこんなにおいしい思いができるなら、こんなに良いことってないじゃないですか。
チャンスを見つけてまた食べに来ようと思います。
ごちそうさまでした。
コメント