『孤独のグルメ』に出てきそうな中華料理店があるから行こうぜ!というお誘いをいただいて、巣鴨までいそいそと。
とげぬき地蔵とは反対側の、閑静な住宅街の中にある雰囲気よさげなお店。店名は「なかほら」と読むようです。
四川家庭料理というと激辛だった京成小岩の聖地を思い出してちょっと身構えるところですが、外観からは辛さよりも優しげなものを感じます。
オープンして一年足らずという新しめの店内には壁に描かれたパンダが我々を出迎えてくれます。
こういうお店にしては若めのマスターとおかみさんとアルバイトの三人くらいで営業しているようですが、おかみさんはなんと小さなお子さんをおんぶしながらの接客(!)で、客におしぼりを渡すのは背中のお子さんの役目(笑。こちらも自然と笑みがこぼれます。
メニューはいろいろあるようだけど、黒板に書かれた季節のおすすめが特にそそる。ラム肉の山椒煮やクミン強火炒め、カニミソ…魅惑ワードのオンパレードでどれにしようか迷ってしまう。
ま、とりあえず生ビールから。銘柄は最近泡推しのプレモルですが、この店のも泡の分量バランスときめ細かさがとても良い。
一品目は「やわらか蒸し鶏 濃厚旨辛ダレ」。中華はやっぱり蒸し鶏から始めないと。
その名の通りやわらかーい蒸し鶏に、四川らしいピリ辛のタレ。一般的な胡麻ダレとは違う濃い味が蒸し鶏によくしみて、これはビールが捗るやつや。
青菜の強火ガーリック炒め。
シャキシャキ感を失わずにニンニクのいい香りと旨味を移し取った青梗菜がうまい。これまたビールが進みます。
でもって気になっていた黒板メニューから「ラム肉と春雨の香り高い山椒煮」。
ラムと山椒というと強火でジャッと炒めて食べたくなりますが、煮込むとこんな感じになっちゃうのか。とろみのあるスープの中で、ラムと山椒のいい香りがお互いを引き立てあって、ラムの新たな境地を見出してくれる味。これだけでご飯三杯くらい行けてしまいそうです。
こんな料理が続いたらビールがあっという間になくなってしまうわけで、次は紹興酒ハイボールに移行します。
飲みやすさにキンと冷えたステンレスグラスの完食も相まってグイグイいける味だけど、中にリンゴの紹興酒漬けが一切れ入っていて、これを囓ってみると濃厚な甘みに浸されたリンゴがやけにうまい。思いがけないプレゼントをいただいた気分です。
中洞特製麻婆豆腐。四川料理といえば麻婆豆腐は外せません。
四川麻婆というと唐辛子でめっちゃ辛いか山椒でめっちゃ痺れるかその両方かのいずれかというイメージがあるけど、ここのは辛さは程々で旨味とのバランス良い感じ。四川といっても本場そのままではなく、日本人向けにアレンジされた家庭料理という印象を受けます。
そこにすかさず「ごはん、要りますか?」と出していただいた白飯。
そう、この辛味と旨味の前には日本人なら白飯が欲しくなる!当然のごとくミニ麻婆丼にしてかっ込める幸せ。
続いては「潰し里芋のねっとり熱々焼き 肉そぼろあんかけ」。
ホクホク、ねっとりとした里芋の熱々と、それを閉じ込めるあんかけの組み合わせ。麻婆豆腐の刺激を受けた直後の口腔にこの熱さは刺激が強いけど(汗)、四川らしからぬ旨味中心の優しい味にハートを鷲掴みにされます。
そういえば京成小岩の店でも似たような料理で「じゃがとろ」というのがあったけど、改めてこれは四川の一般的な家庭料理なんだろうなあ。
再び黒板メニューから、鶏ももとモリーユ茸の香り炒め。
この店の料理、旨味と辛味もいいけどどれも香りが良いんです。まず運ばれてきた瞬間に視覚と嗅覚で楽しんで、その後に味覚で楽しめる。まさに全身でおいしさを堪能している実感があります。
これは絶対食べておきたかった、豚スペアリブの煮込。
筋張った感じも脂っこさもなく、ひたすら柔らかい旨味の塊を食べている感覚で期待以上のうまさ。味と香りもよくしみてます。
やっぱりこの店、期待していた以上にレベルが高い。
こうなると紹興酒が欲しくなるというもので、甕出しを常温でいただきます。
本当にうまい四川料理には、やはり紹興酒が一番合う。
季節ものから春キャベツのカニミソ煮。これまた出てきた瞬間にカニの香りがふわあっと漂ってくる垂涎もの。
半分溶けてしまいそうなほど煮込まれたトロトロの春キャベツがカニミソと渾然一体となって、これはたまらん。あまりにもおいしくて一瞬でなくなってしまいました(笑
もっちり水餃子。見るからにモチモチの皮の中にギュッと凝縮された餡のコントラスト。
小皿に黒酢を垂らすとパンダの絵柄が浮かび上がってきて、目にも楽しい。
ここで紹興酒がなくなってしまったので、中国酒 三種飲み比べセットをおかみさんのお勧めで見繕ってもらいました。
左の女児紅(ニュアルホン)はスタンダードな紹興酒で安定の美味しさ。この店の料理ならどれにでも合いそうです。
真ん中は黒もち米と黒豆、生姜で作られたという客家黒姜(クージャーヘイジャン)。黒糖っぽい甘みとジンジャーの香りを感じる濃厚な飲み口はとても私好み。
右端のライチ酒は見た目の通り爽やかな甘みとほんのり酸味が食後酒としてもいけそうな感じで、どれもおいしい。
〆のご飯ものはホラホラチャーハン。王道のレシピを丁寧に作った感じが、ここまでに食べてきた他の料理と同じくこの店らしくてとても良い。変にアレンジされた創作料理よりも、こういう飽きずに食べられるスタンダードを安定して提供し続けられることが、町中華に求められているものなんじゃないだろうか。
最後は豆乳プリン。四川ってデザートにはスイーツよりも果物を食べる文化らしくて杏仁豆腐もあまり一般的ではないらしいんですが、この豆乳プリンはマスターが現地で食べたことがある味を再現してみようとして作った一品とのこと。濃いめなんだけどサラッとした味が食事の終わりにちょうど良い。
はー、最初から最後まで一つとしてハズレなくおいしかった。
丁寧に作った料理を地元の人たちに毎日でも飽きずに楽しんでほしい、そういう想いを感じる店でした。
本当に『孤独のグルメ』に取り上げられてもおかしくないクオリティだと思うけど、あまり有名になりすぎてほしくない気もします(笑。
ウチからだと巣鴨ってあまり近くないんですが、他にも気になるメニューはたくさんあったし、何度となく訪れたい店。
機会を見つけてまた食べに来よう。
ごちそうさまでした。
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