あのフォトヨドバシから新しいムックが発売されました。それも全編ツァイス本!ツァイス信者としてはこれは買わざるを得ない。というわけで発売日と同時に購入しました。
フォトヨドバシ オリジナルムック『がっぷりツァイス』できました。 | フォトヨドバシ
ヨドバシ・ドット・コムなら紙版と電子書籍版のセットが一冊の値段で手に入ってしまいます。写真の良さからいって紙版で持っておきたい一冊ですが、電子書籍でいつでもツァイスレンズに憧れられる手軽さも捨てがたい(ぉ。
フォトヨドバシのムックとしては過去に発売されたキヤノン EF マウントレンズ本とソニー E マウントレンズ本も持っているわけですが、これらが Web のフォトヨドバシに掲載されたレビューの総集編かつ現行レンズの販促的な位置づけとして玄光社から発売されたものであったのに対して、この『がっぷりツァイス』はヨドバシの自社出版、かつ全編撮り下ろしという気合いの入りまくったものになっています。だいたい表紙からしてキャッチコピー一切なし、ハッセルブラッドに装着された Biogon 38mm F4.5 のブツ撮り一発という潔さ。何かこう訴えかけてくるものがあります。
冒頭はツァイスレンズの、いや写真用レンズの王と言える Planar の特集から。Y/C マウントを中心に王道の Planar による写真がドドンとプリントされています。50mm と 85mm 二本の F1.4 レンズはもちろんのこと、玄人好みの 50mm F1.7 や実物を目にすることさえ稀な 55mm/85mm F1.2 に至るまで。
Y/C マウントは中古なら今でも比較的入手性の良いツァイスレンズですが、50mm/85mm F1.4 であればその流れを汲むレンズを「Classic シリーズ」として今でもコシナから新品で購入することができます。コシナ製ツァイスレンズも今や大半が Otus/Milvus シリーズに世代交代してしまって、オリジナルを踏襲した Classic シリーズはもう定番 50mm/85mm の二本だけになってしまったのはちょっと淋しい。まあミラーレスカメラで使うのであれば ZM シリーズという選択肢もありますが。
続いては中判スクエアフォーマット特集としてハッセルブラッドとローライフレックス用ツァイス。
Instagram のおかげですっかりお馴染みとなったスクエアフォーマットですが、紙媒体かつこのサイズで鑑賞すると全く違った印象を受けます。デジタルフィルタで加工された画像とは異なる、深みのある世界。私もハッセルや二眼レフのような「下向きに覗き込んで撮るスタイル」にちょっと憧れるところもあり、ついこれらのカメラの中古相場をチェックしてしまいました。
写真を中心としたレンズ紹介ばかりかと思ったら、冊子の中ほどに「カール・ツァイス」という会社(財団)の歴史についての特集も組まれていました。
ツァイスという組織は写真用レンズに限らず光学技術を軸とした複合企業体ですが、ここでは主に写真軸でみたときのツァイスの歴史がまとめられています。当然東西ドイツ分割に伴う「ツァイス・オプトン(西側)」と「ツァイス・イエナ(東側)」への会社分割の歴史にも触れられており、ツァイスに興味がある写真人ならば必読。あの分厚い『ツァイス 激動 100 年』を読まなくてもツァイスについてだいたい理解できます(笑。
そんなツァイスの歴史からの、東側ツァイス・イエナのレンズ特集。主要な研究者・技術者を西側に奪われて以降も、東独ツァイスはそれまでの技術や設備を駆使し、また社会主義体制下における人件費の安さと M42 スクリューマウントの汎用性の高さも相まって「ツァイス・イエナ」のレンズは世界で幅広く販売されます。その結果西独のツァイス・オプトン社との訴訟問題にまで発展したというほど。私もイエナのレンズは 135mm 一本だけ持っていますが、東独の厳しい歴史を写真にも写し込むかのような、西側のレンズとは何かが違う描写が気に入って、時々むしょうに持ち出したくなります。
そしてミラーレス時代にツァイスレンズを語る上で欠かしてはならないのが CONTAX G レンズ群でしょう。現代のボディに装着しても唸るような描写を見せるレンズが揃っていますが、本書では Planar 45mm F2 が「CONTAX 用 Planar 55mm F1.2 に迫る」として最上級の評価を得ています。確かに私も CONTAX G レンズ群の中でも 45mm は最もよく使うレンズ。それでいて中古市場でも CONTAX G レンズ群の中では最も安価に流通しているだけに、ミラーレスでオールドレンズ遊びをするならまず最初に手に入れるべき一本と言っても過言ではありません。
というように、本書はほとんどが「新品ではもう手に入れることができないレンズ」の紹介で構成されています。現行レンズは最後にちょっとだけ Otus について触れられている程度。そういう意味で、本来は自社で販売している商品の販促を目的とするフォトヨドバシのコンテンツとは一線を画しています。彼らが何のためにこれを刊行したのか?少なくともこれによって書籍の売上以外にヨドバシカメラの販売に繋がりそうな要素はほぼないため、考えられるのはフォトヨドバシ自体のブランディングと写真文化への寄与、あとは担当者の趣味(笑)くらいしか思い当たりません。それでも読んでみたいと思わせるだけのものをフォトヨドバシというコンテンツは持っています。
先日ライカレンズ本を買ったところなのに、ツァイスについてもこんな危険な本を買ってしまうとは。最近もっぱら AF レンズしか触っていないけど、久しぶりに中古カメラ屋に顔を出したくなりました。
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