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明日を綴る写真館 @TOHO シネマズ川崎

先日公開されたばかりのこの映画を観てきました。

明日を綴る写真館

明日を綴る写真館

俳優・平泉成の初主演映画です。数え切れないほどの映画やドラマに出演歴のある名バイプレーヤーですが、私は NHK の『サラリーマン NEO』でコメディを演っている姿を見てファンになりました。その平泉成が御年 80、芸歴 60 年にして初めての主演映画とのこと。しかも写真をテーマとした映画というなら観に行くしかありません。
主演が渋い上にキャスト陣が大ベテラン揃い(それこそ平泉成が出演していた映画やドラマで主役を演じていたような面々)だから客層はシニアだろうと想像して映画館に足を運んだところ、お客さんの大半が女性で驚きました。どうしたのかと思ったら対役の佐野晶哉って旧ジャニーズ系なんですね。完全におじいちゃんおばあちゃんに混じって渋い映画を観るつもりでいたから逆に自分の場違い感がすごかった。

若手の売れっ子フォトグラファー・五十嵐太一(佐野晶哉)は自身が受賞した写真コンテスト会場に展示されていた一枚の写真に心を奪われ、その撮り手に弟子入りしようとする。その写真を撮った鮫島(平泉成)は地方(岡崎)で今にも潰れそうな写真館を営む老人だった。太一はいったんは鮫島に拒まれながらも写真館の仕事を住み込みで手伝うようになり、それらの仕事を通じて人の一生における「写真」というもののもつ意味を改めて知ることになる。また、太一・鮫島ともに複雑な家庭環境をもっており、二人の出会いと写真の力がお互いの家族の在り方にも影響を与えていく…という話。

正直に打ち明けると、こういう雰囲気の邦画ってとかく人の生き死にで感動させようとするものが多くて、本作もきっと写真はとっかかりにすぎずありきたりな生死の話でお涙頂戴するような映画だろうと高をくくっていたところがありました。でも実際には(生死にかかわるエピソードもありはするけれど)写真の本質とは何か、を二人の人生を通じて問いかけてくるような物語でした。

人の心を動かす優しい写真を撮る鮫島と、SNS を通じて圧倒的な人気を誇る太一。でも鮫島はかつて家庭を顧みない仕事人間だったことで一人息子との間に埋められない溝を抱えており、太一は少年期のトラウマから自分が満足する写真を撮るための「何か」を見出せずにいる。二人がお互いに親代わり、子代わりになることで失ったものを取り戻していくストーリーです。そこに写真が重要な役割を果たすことが、写真好きとしては琴線に触れました。

「写真に写るのは被写体ではない、被写体を通じて自分自身が写るのだ」
写真作品を撮る人であれば幾度となく耳にしたことのあるだろう写真の本質が劇中で鮫島の口から語られます。
ポートレートであれば被写体と自分との関係性が浮かび上がってくるし、風景や静物であっても被写体を見て自分の心が動かされた瞬間が切り取られる。写真とはそういうものだと思います。個人的には、三度もコンテストで金賞を受賞している太一がこの写真の精神性を理解していなかったことには違和感をおぼえたのですが、もしかして SNS 映えのする写真ばかり撮っていてもそれは解らない、という皮肉ですかね。まあ、この映画におけるメッセージを描く上では太一がそれを理解していない必要があったということかもしれませんが。

でもそれ以外にはカメラ関係の考証はしっかりしていて、あえて気になった点といえば登場するカメラがほぼニコン製品なことと、その距離から撮るのにパンケーキレンズはないでしょ?というシーンがあったくらい。むしろカメラ(ニコン FM2)を構える平泉成がとにかくサマになっていて、特に巻き上げレバーを引く手つきに演技以上のものを感じると思ったら平泉成自身が写真撮影を長年の趣味としているんですね。そういう意味ではまさにはまり役と言えます。

期待していた以上にいい映画でした。特に写真好き、あるいは写真という芸術が人を動かす力を信じている人であれば見て損はない作品だと思います。

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