この時期恒例となっているセイコーのデザインイベントに行ってきました。
power design project 2026 こだわりすぎた腕時計展
私が参加するのは「専用すぎる腕時計展」「専用すぎる腕時計展2」に続き三回目。過去二年は原宿駅前にあるSeiko Seedでの開催でしたが、今回は南青山が会場。Seiko Seedはいつの間にか畳んじゃってたようですね。
過去の「専用すぎる~」は特定の趣味趣向や職業(?)の人に向けた特殊なギミックを持つ腕時計(の試作品)の展示会でした。ぶっ飛んだ発想にセイコーの技術力で大真面目に取り組んでる感覚が面白いイベントでしたが、今回はちょっと切り口を変えて「こだわり」がポイント。今まではコンセプトや用途から入った企画視点のものづくりだったのに対して、今回は製造や技術を出発点としている模様。
入場するとまずパンフレット(毎回かなり出来が良い)に加えてカード型のルーペが配布されます。このルーペでこだわりを細部まで見てほしいという思いの表れですね。
ちなみに会場内には、少なくとも私が行ったタイミングではイベントスタッフの他にセイコーのデザイナーさんが在廊されていて、展示物に関する蘊蓄を熱く説明していました。
まずは「切削痕」へのこだわり。
アルミニウムの削り出しで造られた工業製品、というのはiPhoneやMacBookに代表されるように現代のデジタルガジェットでは一般的になりました。本来なら鋳造(金型による成型)の方が低コストなはずが、中国をはじめとする工場に切削器(CNC)が大量導入されて生産能力が上がったことが世の中を変えたと言って良い。
でも通常はその製造工程で発生する切削痕は最終的には研磨やブラスト加工を経て見えなくなるところ、ここではその切削痕そのものを加飾として使ってしまおうという発想が面白い。
CNCの刃が通った跡を文字盤の模様として生かしています。またケース自体にもあえて段差をつけた切削を行うことで、金属の質感や機械らしさを前面に表現したデザイン。金属フェチとしてはあらゆる角度からいつまでも見ていられるし、撫でたり愛でたりしたくなるところ。見ているだけで呼吸が荒くなります。
裏蓋もこのとおり。これだけギザギザして見えたら肌触りが悪そうでしょう?でも「power design project」のロゴ彫り込み以外の切削痕はキレイに均してあって平坦なのがまた面白い。
尾錠やメタルループもちゃんと切削仕上げ。いやあ惚れ惚れします。
続いては「球面」にこだわりすぎた腕時計。ちょっと近未来的なデザインに見えます。
風防(ガラス)、ベゼル、ケースがそれぞれ別の部品にも関わらず、R=4500(半径45cm)の球面にバチピタにハマるように組み上げられている美しさ。なんかヨーロッパのファッションショーとかハイブランドのショーウィンドウに並んでいてもおかしくない佇まいを感じる。
裏面も、しかも自動巻きのメカを収めたシースルー裏蓋まで含めて球面で揃えられています。パーツによって仕上げの異なる裏面の方が製造の精度の高さが感じられて痺れます。
触れるサンプルが置いてあったのですが、この金属の曲面の感じとか部品ごとのツラが揃ってる感じとかを撫でるのがものすんごく気持ちいい。
こちらは「型打ち」にこだわった時計の展示。
型打ちとは腕時計のダイヤル面に微細な紋様をつける加工のことで、グランドセイコーなんかだとすごく凝った文字盤のモデルがありますよね。これはその技術を使って文字盤に日本の四季を表現する紋様を打ち込んだ腕時計です。
肉眼だと細部がどうなっているか分からないくらい細かいですが、展示されていた拡大モデルを見てこんなになってたのか!と驚きます。
私は今まで文字盤はできるだけシンプルなものを好んできたけど、今後は少し型打ちにも注目してみようと思いました。
続いて「手巻き」へのこだわり。
手巻きの腕時計なんて今でも普通にあるし、そんな特別なことはないんじゃない?と思ったら、その秘密がベゼルに隠されていました。一般的なりゅうずではなくこの特徴的なベゼルを回すことで機械式時計のゼンマイが巻き上げられる仕掛けになっています。
ベゼルの凹凸が歯車型のりゅうずと咬み合うことでゼンマイが巻かれる仕組み。りゅうずを一段引き上げるとベゼル回転で時刻合わせもできます。
実際に触ってみたところ、小さなりゅうずを回すよりもベゼルを回す方がなんだか「精密機械を操作してる」実感がすごくある。この時計触ってて楽しいです。
そしてこれは「棒略字」にこだわった腕時計。
棒略字、って普段聞き慣れない言葉ですが、時計のダイヤルについているインデックス(1~12時の表示)を数字の代わりに棒で表現したもの。その棒略字も実は形や高さなどにバリエーションがあり、この時計はダイヤルを全て棒略字で埋め尽くしてしまったらどうなるか?にチャレンジした一品です。
本来は視認性や高級感のためにダイヤカットを施されたさまざまな種類の棒略字が並ぶことで、少し角度を変えただけで次々に光を反射してキラキラ見えるのが美しい!
時間を見るためでなくこのキラキラを楽しむために腕時計に目をやることが増えそう。これ実際に商品化したら欲しい人はけっこういるんじゃないでしょうか。
「曜日表示」へのこだわり。
普通、腕時計には日付(デイト)表示があるものは多いけど曜日(デイ)表示つきのものは多数派ではないと思います。が、この腕時計はデイトなしでデイのみ、しかも何故か今日の日本語表記・英語表記に加えて明日の日本語表記まである。そんなに要るか(笑
仕組みはこうです。24時間ごとに1段階(51.4°)回転する「曜車」が仕込まれていて、しかもそれが3種類の表示がうまいことズレて配置されている。普段デイト表示つきの腕時計を使っていても中身がどうなっているか意識することはありませんが、実際に仕組みを見ると面白い。
ちなみに稀にあるデイデイト型の腕時計は曜車と日車が二段重ねで内蔵されているということですね。この小さなケースの中にその精密機械が収まっているというのがロマンだよなあ。
棒略字、曜車、と来たらもちろん「手針」が出てくるわけです。時針や分針のことですね。
でもこれはこだわりすぎた…というよりは「猫好き専用腕時計」って去年までのイベントに出すべきだったやつじゃないですか?と思ったら、猫の手が秒針、足が分針、尻尾が時針になっている。
そして斜めから見てそのこだわりが分かりました。
手針が立体形状になっていて、猫の姿がとても奥行きを持って感じられる。それでいてこの複雑な形状の手針が互いに干渉しないよう計算されている。見た目のかわいさに騙されるところでした。
製造工程は検証用の3Dモデリングから加工用のジグまで、至って真面目な設計・製造の話。
製造業のデザイナーって華々しい職種に見えて、実際は材料や製造工程を熟知してメカ設計との緻密なやりとりが大事な仕事です。というのがよく分かる展示。
会場内にはこういった「こだわりすぎた」結果として実際に製品化までいった過去のモデルも展示されていました。
腕時計って機能やデザインで選ぶのもいいけど、こういう「技術にこだわった結晶」を自分の身に纏う、というのも一つの楽しみだと思います。クォーツやスマートウォッチの方が正確で便利でも、今でも機械式腕時計を愛する人が多いのもそういうことですよね。
本当は今回の展示コンセプトを聞いて「作り手の自己満足を見せられたらどうしよう」と少し心配していたのですが、最終製品に活かすための真摯な技術研鑽の一端を見せてもらえたように感じました。私はセイコーの腕時計といえばASTRONを愛用しているけど、なんだか機械式腕時計が欲しくなってきちゃったなあ…。





















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