「雪の中で、温かくゆっくり、うまいものを食べる。まさに至福の宴」
本当に来てしまいました、北海道・旭川。ドラマ『孤独のグルメ』聖地巡礼としては、Season4 「真夏の博多出張スペシャル」以来の遠征シリーズとなります。今回は、今年元旦に特番として放送された「真冬の北海道・旭川出張編」の聖地を訪れるため、はるばる旭川までやって来ました。
北海道は札幌と小樽には来たことがあるけど、旭川は初めて。ちょっと緊張します。
この日は最高気温でも -1℃、夜間は -10℃ を下回るという、関東民にとっては凍える寒さ。いっぽうで関東は春の陽気ですからね。でも「真冬の北海道」という冠をつけられたら、その時季に来るしかないじゃないですか(ぉ
でも、思ってたより静かな街だな、旭川って。
金曜の夜だというのに、市内随一と思われる繁華街にさっぱり人がいない(笑
まあ、街中にもこれだけ雪が積もってりゃ、そりゃそうか。
しかし、この雪…。
よし、まずは足元を固めよう。
ん?あの光、あったかそう。
旭川の歓楽街のはずれあたりに、ぽつんと雪道を照らしながら、静かな存在感を放つ店が一軒。
雪の中にこんな店が、ひっそりと旅人を待っていたなんて。
北国のエトランゼ。
それにしても、「独酌」って。ひとり呑兵衛の巣窟かも。
だが三四郎、井之頭の五郎につながる。
この店でとにかく暖をとろう。
えっ…何、ここ。
なんとも渋い店に飛び込んじまったぞ。
神棚。はたらきだいこく。あきないえびす。
働く七福神。
よく見ると、「孤独のグルメ」「井之頭五郎」と達筆で書かれた箸袋が。
ゴローちゃん、確かにこの店に来たんだなあ。
カウンターには、いかにも人の良さそうな顔をした大将が。
この店の、静かで暖かい雰囲気は、たぶんこの大将と女将さんがつくっているんだろう。
ドラマの、いつもの『孤独のグルメ』とはちょっと違った、静かで少し厳かな空気感の理由に、触れられた気がしました。
放送から二ヶ月経ってもまだまだドラマの影響は大きいようで、一階の席はほぼ満席。
劇中には登場しなかった二階席に通されました。
私は一ヶ月前から予約していたので良かったけど、飛び込みだったら危なかった。
薄暗くて雰囲気のある一階席に比べると、二階席はなんだか古い親戚の家の二階に上がり込んだような感じだ。
しかも、ふすまに謎の虎が描かれている。
とりあえず着席。
箸袋には、大将が一枚一枚手書きしたメッセージが。
「らしく」。うん、今年の自分のテーマは「らしく」で行こうかな。
お通しの酢大豆、あんまりこういうおつまみは食べたことがないけど、素朴な味。
そしてメニューは、一覧のレギュラーメニューのほかに、季節ものはこうやって木紙に達筆。
この文字を見ているだけで、どの料理も本当にうまそうに思えてくる。
ああ…どんどん腹が減って、ワクワクがマックスだ。
この店で俺が選ぶべきものは、何だ?
まあまずは生ビールから。氷点下の寒さだけど、なんとなくこれから始めないと始まらない。
北海道の生ビールは、やっぱりサッポロが王道なのね。
料理のほうは越冬野菜の盛り合わせから。
「盛り合わせ」という語感とは裏腹に、ちょこんと上品な盛り付け。
味の方は、これまた控えめな、やさしい味。
雪の下で春を待つ野菜たちの健気さが、そのまま皿に盛られてきた。
木紙メニューで猛烈なうまそうさを放っていた、たち入きんちゃく。
これも、文字のインパクトとは逆に、やさしく懐かしい味。
出身地でもないのに、なんだか故郷に帰ってきたような。
この妙な郷愁はどこから来るんだろう。
身欠にしん焼き。生姜・オン・ザ・にしん。
にしんって、本州だと意外と食べる機会の少ない魚。
北陸人的には、昆布巻きのイメージが強い。
こういう形で、身欠にしんをシンプルに焼いて食べたことって、ほとんどないかも。
なるほど。にしんは「春を告げる魚」とも言われるけど、そこに生姜の刺激も効いて、この寒い中でも気持ちがほっこりしてくるな。
そして、新子やき。
ゴローちゃんが食べるのを見て初めて知ったけど、これ、このあたりの名物料理とのこと。
お~、こうきたか。
炭火でしっとり柔らかく焼かれた若鶏に、甘辛くて深みのあるタレがよく合う。
ん~うまいな、新子やき。
これだけで、メシ五十杯ぐらい食えそうだ。
これも北海道らしい小鉢、松前漬け。
もう 3 月だけど、正月特番らしさを感じる一品。普段だと、おせちくらいでしか食べないからなあ。
こういうのを食べると、日本酒が欲しくなる。
っていうか、さっきから熱燗を頼んでいるんだけど、なかなか来ない(泣
どうやら熱燗の注文が立て込んでいて、徳利が空かないらしい…。
ふらっと QUSUMI メニューの、一夜塩うに。
これは放送を見たときから絶対食べようと思っていました(笑。
うに好きかつ酒盗系塩辛好きとしては、これは外せない。
食べてみると、想像通りうにのうまさがギュッと凝縮された、呑兵衛の最高のおつまみ。
少量だけど、ものすごい充実感。北海道に来て、良かった。
手作りつけもの。
どれも、大将の人柄が料理に沁み込んでいるかのような、やさしい味。
つけものがうまい店は信頼できる。
白菜の漬け物の奥に隠れているのは、なんと豆腐の漬け物。
豆腐がまるでチーズのような濃厚なうまみに包まれていて、やさしい漬け物群のなかで、ひときわ異彩を放っている。
これ好き。ひと食い惚れ。
鳥もつ煮込は、どんな店でも脂っこく濃厚な味になりがちなところ、この店のは他の料理同様にあっさり、やさしい味。
これは確かに、ガンガン飲むためのつまみじゃなくて、独り静かにチビチビ飲るための味付けだ。まさに、独酌。
う~ん…改めて、どれもこれもうまい。
旭川の居酒屋、恐るべし。
そこに、待ちわびた焼き水熱燗がようやく登場。
旭川の店だけど、熱燗は新潟の麒麟山で作ってくれるらしい。
後口をキリッと引き締めてくれる辛口が、熱燗にちょうどいい。
甘口だったら、このやさしい味の料理たちと相まって緩くなってしまうに違いない。
日本酒の到着を待っていたかのように、このタイミングで刺盛り(2,000 円)も登場。
気取らずに、ややぶっきらぼうに盛られたこの感じが、海の幸の宝庫・北海道っぽい。
ネタはマグロにイカ、タコ、ホタテ、ツブ貝…と一般的だけど、どれも新鮮さが感じられておいしい。
手前のはもしかしてにしんかな?にしんの刺身ってたぶん初めて食べたけど、生で食べるとこんな青魚らしい味なんだ。にしん刺、気に入りました。
玉子やき。
甘すぎず、ダシの香りも控えめで、やさしい味の玉子やき。
玉子にワサビ、っていうのもいい。
なぜ寿司屋でこれに気が付かなかったんだろう。
ああ、いいなあ。
とうきび茶。
あ…すごいとうもろこし。コーンときた。
温まるし、いいな、これ。
器に味のある絵が描かれているのもまたいい。
北海道だし、これはエゾフクロウかな。
熱燗があっという間に空いてしまったので、次は高砂酒造の「烈 特別純米酒」を冷酒でいただきます。
淡麗辛口をそのまま酒にしたような、キリリとした飲み口。こういう酒が刺身に合うんですよ。
そして、愛別産きのこ汁。
うわうわうわうわ。キノコ、いっぱい。
どれ…。
ああ、とろ~りとうまい。あったまる。
キノコは苦手な私だけど、これはおいしい。
さっきまでなかなか出てこなかったのが嘘のように、冷酒はどんどん出てくるわけですが(笑、続いては男山 生もと純米酒。
北海道の酒と言えば男山、というほどに有名な銘柄で、東京でもよく飲む酒でもあるけど、本場で飲むこの辛口はまた格別かな。
さあ、そろそろ〆に入ろう。
白飯を頼むと、さっきの新子やきのタレを混ぜてタレごはんにしてもらえました。
単に混ぜただけじゃなく、刻んだ大葉を散らしてあるのがちょっと嬉しい。
うまいな、これ。
何だろう? 懐かしい味だ…。
新子やきをおかわりして、さらにこのタレごはんをもう一杯いただきたくなるほど、鶏もごはんもおいしかった。
ああ、いい店だった。
心も体も温まった。
味付けや量や盛り付けが分かりやすい店ばかりがもてはやされがちなネット時代にあって、この微妙なさじ加減のやさしい味が、なんとも嬉しい。
店内の独特の空気感もあって、余韻に浸りたくなる店だ。
やっぱり、この寒い時季に敢えて旭川まで来て、正解だったかも。
ほんとうに、ごちそうさまでした。
コメント