スポンサーリンク

勝利の流れをつかむ思考法

F1 日本グランプリの開幕に合わせて発売されたこの書籍を、鈴鹿への道中で読んでいました。

山本雅史 / 勝利の流れをつかむ思考法 F1 の世界でいかに崖っぷちから頂点を極めたか

第四期ホンダ F1 でマネージングディレクターを務めた山本雅史氏による、第四期 F1 活動を同氏の観点で綴ったドキュメントです。
内容的には先だって発売された尾張正博氏の『歓喜』と重複する部分もありますが、本書は当事者として F1 を戦った山本氏の視点からはどう見えていたのか、そして技術競争も政治的駆け引きもスピードが段違いな F1 の世界で戦っていく上で必要なことは何か、ということが赤裸々に記されています。

一応ビジネス書的な書き方を意識して松下幸之助や稲森和夫といった名だたる経営者の名言の引用も所々にありますが、そのあたりはあくまでオマケかな。ただ「現場」で「現物」を観察し「現実」を認識した上で問題解決を図る「三現主義」や、商品を買ってくださる人(買う喜び)・商品の販売・サービスに携わる人(売る喜び)・商品を生み出す一連の企業活動に携わる人(創る喜び)という「三つの喜び」といったホンダイズムが F1 の現場でどう実践に移されているかというのはよく伝わってきました(これは各種インタビュー等で山本氏だけでなく、田辺氏や浅木氏などのキーマンも語っていたことではありますが)。

本書には 2015-2017 年の惨澹たる状況からどう技術面を立て直し、2021 年に絶対王者メルセデスと戦えるパワーユニットを開発したか…という話は一切ありません。山本氏はホンダ F1 活動の人や組織のマネジメントとレッドブル/アルファタウリや FIA との折衝が主な役割。でも企業活動においては技術的なファクターよりもリソースをどう配分してチームのモチベーションを高め、かつチームの能力を最大限に発揮するための政治力が発揮できるかが重要。個人的には、レッドブル・ホンダ F1 の成功には技術面と同程度に山本氏のマネジメント力が必要不可欠だったと思っています。2015-2017 年の失敗は、総責任者制でトップマネジメントが技術と政治の両面を見る必要があった体制にも問題があった。それを政治面は山本氏が一手に引き受けて、技術陣が技術に集中できる環境を作れたことが大きい。それでいて成功した暁には技術チームをヒーローに仕立て、自身は黒子に徹しようとしていた山本氏の立ち回りは称賛されるべきものだと思います。
また、大成功したホンダ F1 第二期でさえもホンダは「F1 ムラ」の一員として認められてはいませんでしたが、第四期の活動を通じて F1 と各チームから一定以上のリスペクトを初めて得られたのも山本氏の大きな貢献だったと思います。だからこそ 2021 年限りで撤退してしまったことがまた痛いわけですが…。

本書のキーワードはタイトルにもある通り「流れ」で、いかに大局的な流れを読み取って攻勢/撤退の判断を行うかがマネジメントでは最も重要なことである、ということが書かれていると理解しました。具体的な事例を挙げるならばマクラーレンとのジョイント解消の判断だったり、2019 年オーストリア GP での「PU が壊れてもいいからパフォーマンスに振って初優勝をもぎ取りに行く」判断だったり、そういう流れを読んで重要なディシジョンを下すことが組織の成功には必要不可欠なわけです。あとはマイクロマネジメントをせず、一度任せたら良い意味で丸投げをすることも成果の最大化や部下の成長という点では重要。
私自身もこれまでの二十年余の社会人生活を経て、(私自身は政治がてんでダメなので)社内外との政治を一手に引き受けてくれて、実務のディテールは信じて任せてくれるタイプのマネジャーと一緒に働いているときが最も自分の能力を発揮できている自覚がありました。だから本書で山本氏が仰っていることはよく解るし、ホンダ F1 での活動中から一度一緒に働いてみたい人だな…と思っていました。まあ一緒に働いたら実際はけっこう厳しいんだろうなとも思いますが(笑。

第四期ホンダ F1 の努力の結果が、先日の日本グランプリでのレッドブルの圧勝によるドライバーズ選手権二連覇に繋がったのだろうと思います。今年のレッドブルはシャシーもチームマネジメントも最高だったけど、それを速くて壊れない PU で支えたホンダ(HRC)の存在によるところが大きい。日本グランプリからは車体の HRC ロゴが HONDA ロゴに置き換えられましたが、このまま徐々に「正式にホンダとして参戦している」という状態に持って行ってくれることを期待しています。

コメント

スポンサーリンク