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IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

今やライカ公認フォトグラファーとなった南雲暁彦さんの新著を購入しました。

南雲暁彦 / IDEA of Photography 撮影アイデアの極意

前作『Still Life Imaging』はスタジオ撮影によるブツ撮りの教科書的な内容でしたが、本作はスタイルを踏襲しつつもスタジオに限らない撮影にも言及し、また機材別の撮り方のコツにも触れるなど拡張的な話になっています。

Still Life Imaging スタジオ撮影の極意
遅ればせながら購入しました。 南雲暁彦 / Still Life Imaging スタジオ撮影の極意 玄光社の直販ストアの期間限定 50% OFF セールにて購入。 本書は凸版印刷チーフフォトグラファー 兼 長岡造形大学非常勤講師...

今回も前回同様に玄光社コマーシャル・フォト誌での同タイトルの連載をまとめた書籍です。内容自体はコマフォトの Web 媒体「Shuffle」でも読むことができますが、この写真はやはり印刷物として見たい。

IDEA of Photography 撮影アイデアの極意 | Shuffle by COMMERCIAL PHOTO

私は感性が鈍いのか人の写真を見て心が動くことってあまり多くないのですが、南雲さんの写真にはハッとさせられることが多いです。本当に「すごい写真」というのは SNS 映えする写真じゃなくてこういうのなんだろうな、と思っています。

一眼レフカメラをテーマにしたページの写真が冒頭からこれですよ。CONTAX RTX を撮っているハッセルのウエストレベルファインダーを EOS-1DX3 で覗き込むように撮った一枚。まるで一眼レフの歴史を凝縮したような写真だし、ハッセルのファインダーに映る CONTAX の佇まいや光の加減にまで隙がない。惚れてまうやろ…。

本格的にカメラを始めようという人に今あえて一眼レフを勧めている、というお話。確かにミラーレスに主流が移行してしまった今は一眼レフタイプのカメラを買うことができる最後のチャンスなのかもしれません。

個人的には、以前は「せっかくデジタルなんだからクイックリターンミラーなんてフィルム時代の遺産をいつまでも引きずるのはやめれば良いのに」と思っていました。が、デジタル一眼レフを経由してミラーレスに移行した今ではあの OVF の感覚が恋しくて今でも EOS 5D3 のファインダーを覗いてしまうことはあるし、デジタル処理された映像を見ながら撮っているだけでは培うことのできない感覚が、光学ファインダーにはあると思うのです。そういう意味で、なくなってしまう前に OVF の撮影感覚を身につけておくのは正しいことでしょう。

例によって各章に掲載されている写真をどういうセッティングで撮影したかは全て公開されています。言ってみれば同じ機材を使って同じセッティングで撮ったら同じような写真が撮れるわけで、これだけでも大盤振る舞い。でもここまで公開しても本当に心を動かす写真にできるかどうかは撮り手の経験や勘、センスが物を言うわけで、この裏には手順を教えることくらいどうってことないという南雲さんの絶対的な自信があるように思います。

ちなみに一眼レフ、ミラーレス、大判、レンジファインダー…と一通りの種類のカメラ(コンデジだけはなかった)での撮影の極意を紹介した上で、さらにスマートフォンでの撮影例も紹介されていました。確かにスマホは今や「最も多くの人が使うカメラ」になっているけど、スマホで撮った写真を商業レベルで公開するなんてスマホそのものの広告用途くらいだろうと思っていました。レンズやセンサーの小ささもさることながら、コンピューテーショナルフォトグラフィー(スマホ等による高度な画像処理を前提とした写真技術)が表現の意図にとっては邪魔になることもあります。
しかし紙よりもスマホで写真を見ることのほうが多い現代ではスマホで撮った写真のほうが受け手に最適化されているというのも一理あるし、うまく使えばカメラ専用機よりも大胆な写真を作ることも可能。そして何よりも iPhone の純正カメラアプリで撮っているというのに驚きます。

カメラだけでなく被写体やレンズの種類ごとにもこのような「極意」を伝授してくれるわけですが、さらに巻末の「ブツ撮りエフェクトアイデア」が私は気に入りました。ブツ撮りをさらに印象的に仕上げるための演出例ですが、シンプルな小道具でも使い方や撮り方次第で大きな効果を得ることができる。

この手のエフェクトで私が大好きなのはワイシャツシリーズです。言われるまでそれがワイシャツだとは気づけないけど、やっていることは至ってシンプル。本当に「寝っ転がってもただでは起きない」くらいの執念深さや視点のユニークささえあれば何でも面白い写真にできる、という典型ではないでしょうか。

今の時代、SNS でインパクトの強い写真がどんどん流れてくる毎日。私はそういうのにはついていけなくて最近はもっぱら自己満勢・エンジョイ勢で、写真がうまくなりたいという欲求すらあまりなくなってしまいました。でも、これ見せられると自分もいい写真を撮りたくなりますね。別に SNS 映えを狙わなくたって、自分が、あるいは一人でも他の誰かがいいと思える写真を撮ってみたいと思えるし、その発想の原点をくれる一冊だと思います。心の中にぼんやりと生まれたイデアを抱えて、週末はどこかに写真を撮りに行こう。

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