「握り飯、汁、魚。島国の原風景を、俺は今描いている」
五年連続で、今年も『孤独のグルメ 大晦日スペシャル』が放送されることが発表されました。今回は井之頭五郎がクルマを運転して食べ歩くロードムービー形式になるとのこと。そうなると東京からクルマで日帰り、あるいは一泊くらいで行ける範囲内ということでしょうか。Season9 では相模方面と北関東が多かったので、それを外すとなると千葉~茨城方面か山梨から南アルプス方向か。いずれにしても駅近にはならなさそうなので巡礼のハードルは高いでしょうが、今から楽しみにしています。
一方で私は Season9 の残る聖地巡礼のため、群馬県高崎市にやって来ました。群馬って何故か孤独のグルメでの登場率が高くて、しかも焼きまんじゅうにブラジル料理、豚すき焼きに一人焼肉…と濃い店が多い。今回のお店も放送を見る限りはかなり濃そう。
というわけで目的地は高崎市内にある、第 8 話に登場したお店です。高崎駅からははるばる徒歩で 20 分近くかかるので、駅からバスあるいは無料シェアサイクル「高チャリ」を利用するのが良いでしょう。
「おにぎり処 えんむすび」、実にいい店名じゃないか。
おにぎり、おむすび、えんむすび。この出会いは、縁だ。
事前予約のうえ開店時刻に合わせて入店しました。
他のお客さんはまだいなかったので、店員のお姉さんに「一番乗りのお客さんの特権です」と案内されたのがゴロー席。入店するなり、聖地巡礼で来たことがバレてる(笑
これがゴロー席からの光景。板メニューがまるで寿司屋だ。
それでいて、これ全部おにぎりの具か。いいじゃないかいいじゃないか。
右側にある一品料理にもソソられる単語が並んでいる。これは悩むなあ~。
大将の味のパレットから何色を選び、どんな絵を描くかが客の仕事だ。
何はなくとも生ビールから。夜の外食習慣がなかなか戻ってこない今、こうやって外で生ビールを飲める機会は本当に貴重で、嬉しい。
お通しは秋茄子の煮浸し。
うん、いい茄子だ。大ぶりでホタホタの秋茄子に味がよーくしみて、この上なくおいしい。
おにぎりはとりあえず五郎’s セレクションに沿っていくことにします。
まずはうに、いか明太、ねぎ味噌。
この寿司ゲタにちょこんと乗っかってくるおにぎりが愛らしい。
口開けは、粒うに。生うにが品切れだったので、代わりに粒うに。
今年はうに、不漁らしいからなあ。
粒うにだけど、しっかりうにってる!おにぎりって言葉にそぐわないほどのごちそう感。
そういえばうにのおにぎりって食べたことなかったかも。これはハマる味。
いか、いかがなものか。
寿司のいかとはちょっと違うコリッとした食感に、明太のピリ辛がいいアクセント。
大将が「ウチはおにぎりを〆じゃなくてツマミとして出す店だから」と仰っていて、このいか明太の味には納得しかありません。
ビールじゃなくて日本酒に行きたくなる感覚もあるけど、最近酒量が減っていてしかも遠方だから日本酒はちょっとガマン。
何故か日本酒の品揃えが銀盤と立山という富山人としては歓喜のラインアップだったから、やっぱり一杯飲んでおくべきだったかなあ。
そしてねぎ味噌。うにやいか明太のツマミ味から、一気にごはん感覚に振れてきた。
でも、これは頼んで正解。ねぎの香りと味噌のコク、たまらん。
これを挟んだことで、おにぎりの流れに奥行きが生まれたぞ。
飲み物はハイボールに変えていきます。
強炭酸で作ってくれるところが嬉しい。店でジョッキで飲むハイボールって、自宅で作るハイボールとはなんか味わいが違うんだよなあ。
続いては鮎の塩焼き。
まるで泳いでいる状態のまま串焼きにされたかのようなこの姿が素晴らしい。
孤独のグルメの劇中では大将の釣り好きなお兄さんがこの鮎を釣ってきているという話がありましたが、大将ご本人によると「『ドラマ出ること決まったからさ、頼むよ』と言ったらわざわざ岐阜まで釣りに行った」とのこと(笑。
岐阜の鮎は江戸時代には殿様への献上品だったという、由緒正しき天然鮎。
ヒレを外したらそのまま背中からかぶりつきます。
川魚の塩っ気。独特の香ばしさ。
天然ものらしい引き締まったうまみ。養殖だと脂で焦げてしまって、こういう綺麗な姿焼きにはなりにくいらしい。
鮎って普段はあまり食べないけど、たまに食べるとうまいなあ。
こういうのでいいんですよ、こういうので。
おにぎり第二弾はかずのこ、あなご、しょうが。
かずのこはしょっぱさとプチプチがたまらない。寿司じゃなくて白米とかずのこ、けっこういいかも。
しょうがはしっかり辛口、川魚を食べた後に口の中がリセットされる。
そしてあなご、これが期待以上のうまさ。
あなごって鰻の代用品なイメージがあってあまりおいしいと思ったことがないけど、ここのあなごは柔らかい触感と甘じょっぱいタレの組み合わせが絶妙。あなご、酢飯より白飯のほうが合うかも。
ここで大将がドラマ撮影時の台本を気前よく見せてくださいました。
女将さんがご本人役で出演されていたんですよね。しかもご本人出演回にしては珍しく、ちょっとしたセリフつき。
ドラマ登場店で台本が飾ってあったところは少なくないけど、中身まで見せてくださったのは他には博多の一富だけじゃないですかね。
「いか、いかがなものか」とか「別人 28 号」とかいう駄洒落が大真面目に書かれているのが可笑しい(笑
ト書きも「さらに齧り付く」とか「味噌汁を飲む、飲む。」といったように淡々とではなくライブ感ある文体になっているのが興味深い。まるで実際の映像が目に浮かぶようです。
巻末には撮影香盤表とか、(遠征ロケであることもあり)出演者やスタッフの宿の部屋割りとかまで網羅されていて、ちょっとした旅のしおり的な。
これはなかなか貴重なものを見せていただきました。
まだまだいきます。今度は鮭、たらこ、まぐろ(づけ)。
鮭やたらこといったら日本人にとってはおにぎりの王道中の王道。
よく知った味だけど、この店の端まで具で満たされたおにぎりで食べると少し感覚が違う。どこから食べても味がするのがものすごく嬉しい。
一転してまぐろづけは、抜群に漬かったまぐろが白米とバチィーンと合う。
ツマミ的でありながら、おかずと白米を食べているようでもある、不思議なおいしさ。
改めておにぎりの偉大さを知る高崎の夜。
でもって、大海老ニンニク炒め。
プリプリした大海老の香ばしさをニンニクのガツンと来る味と香りが包み込んでうまい!
これもまたツマミにして良し、おかずにして良し。
そろそろ〆にかかるので味噌汁。
四種類ある味噌汁の中から…よし、ここはナメコ汁で決めよう。
大ぶりのお椀にタップリ入ったナメコ汁。
長年岐阜から取り寄せている味噌を使っているようで、関東とも関西とも違うじんわり優しい味噌の味。
さらにおかわり。川のり(四万十川)、山椒、こはだ。
一番人気という川のりは、さすがに安定のうまさ。甘みのある川のりが白飯を包み込むようにうまい。
そして山椒は…四川料理か鰻重以外で山椒って滅多に食べないけど、単品で食べるとこんな感じなのか。ツーンと鼻に抜ける刺激はあるけどそんなに痺れるほどじゃないしうまいな…いや、痺れ来た!あー…味覚が麻痺して口の中が甘く感じる。汁なし担々麺のあの感覚を、おにぎりで体験することになろうとは。
で、大将が「コハダのおにぎりなんて世界でウチしかやってないよ」というこはだ。
酢で締めたコハダのギュッと凝縮された味が、酢飯じゃなくて白米だとよりストレートに味わえる。そして同時に、白飯の甘さがより際立つ。
コハダってもしかしてこうやって食べるのが至高なんじゃないのか?と思えるほどおいしい一品でした。これ、めちゃくちゃ気に入った。
カウンター内の大将を軸に、他の常連さんも巻き込んで会話の輪が自然とできていきます。こういう店、楽しい。
その話の流れで、裏返されている板メニューの一つが「これ、ないことになってるけど実はあるんだよ」といって見せてくださったのがほたてのおにぎり。
たぶんたくさんはないけどちょっとだけならある、っていうことなんでしょう。
こういうのを見せられたら頼まないわけにはいかないじゃないですか。
生ほたてのプリッ、トロリとした食感と深いうまみ。それが白米をステージに踊っているかのようだ。
確かにこれはとっておきの逸品。寿司とも普段食べるおにぎりとも違う、新しいおいしさ。
こんな風におにぎりたちと向き合ったことが、あっただろうか。
おにぎり、おむすび、いい名前だ。
同じ日本人でも、多種多様な心がこの小さな丸くて三角の食べ物に、優しく握られている。
気さくで話し好きな大将にたくさん笑わせていただきました。
そして、気がつけばカウンターに座る全員がおむすびをきっかけに結ばれている、そんな一体感がある店だった。
いいご縁でした。
うまいものを食べさせようというおもてなしの心と、お客を楽しませようというエンタテインメント精神の両方を感じる店だった。
いやあ、本当においしかったし、楽しかった。
それにしてもおにぎりを夜に食べる機会って、飲んだ〆に焼きおにぎりを食べるくらいなもので、こんな食べ方したことなかった。
というか、成長期も含めておにぎりを一度に 13 個も食べたことは後にも先にもありません。我ながらビックリだけど、めちゃくちゃ腹パン。
群馬に来ることってそう多くないけど、高崎で夜を過ごす機会があればきっとまた食べに来ようと思います。
おにぎりメニュー、まだ半分も制覇できてないしね。
ごちそうさまでした。
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