詳報:トヨタが頼った謎のAI半導体メーカー:日経ビジネスオンライン
週明け早々、「謎の AI 半導体メーカー」が話題になっていましたが(↑はタイトルとリード文の釣り感がひどいけど内容は至極真っ当な記事です)、私はちょうど先週末にこの「謎の半導体メーカー」のプロセッサを搭載したスパコンを見学してきたところだったので、時流に乗ってその話をしたいと思います。
最近あんな映画やこんな映画でネタにされがちな東京工業大学内のイベントで先週末、同校が誇るスーパーコンピュータ「TSUBAME」が一般公開されていました。
TSUBAME とは | [GSIC]東京工業大学学術国際情報センター
「TSUBAME」は初代から NVIDIA 製のスパコン/学術計算向け GPGPU を採用したスーパーコンピュータであり、現行世代の「TSUBAME 2.5」では Kepler 世代の GPGPU を搭載しています。
日本国内のスパコンでは理研の「京」が最も有名でしょうが、この TSUBAME はその次くらいに名が知れていると言えるかな?現行構成になってから既に 4 年近くが経過しており、絶対的な演算性能ではもう世界トップクラスとは言えませんが、電力効率(消費電力あたりの処理性能)では現在でも世界トップクラスを維持しているとのことです。
ちなみに「京」では富士通がこのコンピュータのために開発した SPARC64 VIIIfx プロセッサを搭載していますが、TSUBAME 2.5 は Intel Xeon プロセッサと NVIDIA Tesla K20X GPU、つまり一般的な PC に近い構成のハードウェアになっています。TSUBAME のキモは CPU よりも GPU であり、複雑な CPU の性能をとにかく上げるより、よりシンプルな構成のメニイコア GPU で並列処理性能を高めるアプローチを採っている点。例えば PC では近年 CPU の性能向上が頭打ちになってきているのに対して、GPU は効率向上とコア数増加でまだまだ性能の伸びしろがある状況を鑑みれば、この構成の合理性が解るでしょうか。
TSUBAME はスパコンといっても PC アーキテクチャベースであり、見た目もちょっと大きめなブレードサーバという印象で、単体で見てもラック単位で見てもけっこう地味(笑)。京のように筐体が「どーん」と鎮座する圧倒感もなく、あまり感慨が湧きません(ぉ。マシンルームの広さも一見、大企業や金融機関のサーバルームよりも狭いのでは?というくらいこぢんまりとしていましたが、説明してくれた方(助教かポスドクっぽい)によると「隣にも同じ規模の部屋がもう一つある。壁をぶち抜いてどーんとスパコン風に見せる案もあったが、その議論をしている最中に東日本大震災が発生し、見栄えよりも耐震性優先ということでそのままになった」とのことでした(笑。
見るとユニットは NEC 製、ラックは HP 製(隣の部屋をちらっと覗いてみたら、そちらのラックは APC 製っぽかった)。サーバとラックのメーカーが別というのも珍しい気がしますが、このラックは「冷蔵庫のようになっており、放熱ではなくラックごと冷やす仕組みになっている」とのことなので、構造重視でラックを選定したのかもしれません。そういえば最近の PC パーツもヒートパイプを使ったり、GPU の冷却もファンによる吹きつけではなく基板ごとスリーブで覆ってファンで強制排気だったり、熱を発散するのではなく閉じ込めて管理するのがトレンドになっていますよね。私はスパコンや半導体は専門外ですが、そうやって PC ハードウェアの視点で見ると理解できるような気がしてなかなか興味深い。
ちなみにこの TSUBAME はこの夏に「3.0」の導入を予定しているとのこと。
世界最高レベルを目指す東工大のスパコンTSUBAME3.0、2017年夏に稼働開始へ ~高温水を利用しトップレベルの冷却効率。機械学習やビッグデータ解析をターゲットに – PC Watch
3.0 では GPU を Kepler から一気に二世代更新して現行の Pascal アーキテクチャに切り替えるようです。Pascal といえばグラフィック用途でも GeForce GTX 10 シリーズは旧世代から大幅な性能アップを実現し、PC VR のエントリー価格を一気に引き下げた功労者でもあります。これをベースとしたスパコンであれば、TSUBAME が再び処理性能でも世界トップクラスに入ってくる可能性が見えてきます。
久しぶりにアカデミックな世界に触れていい刺激になりました。TSUBAME 3.0 が公開される機会があれば、また見に行きたいと思います。
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