今年も CP+ 初日に行ってきましたよ。
CP+2019 カメラと写真映像のワールドプレミアショー「CP+(シーピープラス)」
近年の CP+ では入場直後にシグマブースを目指すのが標準になってしまいました(笑。
シグマブースでは当然のごとく L マウントアライアンス推し。L マウントで使えるレンズが既に 78 本もあることを巨大パネルでアピールしていました。といってもマウントアダプタ経由だったりスチル用レンズとスペックが被るシネレンズも含めての数字ですが、L マウントネイティブレンズだけでもライカ・パナソニック・シグマ合計で 36 本というのはけっこうなラインアップ。オールドレンズの世界では星の数ほどレンズのバリエーションが存在する M42 スクリューマウントのことを「M42 星雲」と比喩したりしますが、これは「L78 星雲」と呼びたくなる語呂の良さ。
とはいえ展示物にはあまり目新しいものはありませんでした。CP+ 直前に発表されたのは、既存 Art 単焦点レンズ群の L マウント版の発売と他マウントレンズのマウント交換サービスを開始することと、マウントアダプタの発表のみ。展示もそれに沿ったものにすぎず、レンズはマウントが違うだけでどれも見慣れた Art レンズ。
マウントアダプタ MC-21 はまだ自社製 L マウントボディが存在しないため、ライカ SL・パナ S1R とシグマレンズとの組み合わせで展示されていました。これも目新しさはありませんが、シグマブースにパナソニックの人が視察に来ていたり、逆にパナソニックブースに MC-21 が展示されていたりしてアライアンス感は出ていました。なぜ EF/SA レンズ向けのアダプタがパナブースに?と思いましたが、S1・S1R は 4K 動画に注力したボディだけに EF マウントアダプタ経由で EOS MOVIE ユーザーの取り込みを狙いたい、というところでしょうか。
山木社長にも少しだけお会いできました。L マウントボディについては「ちょっと苦労しています」だけど「明日のステージではちょっとだけ話をします」とのこと。そのステージの様子がさっそくデジカメ Watch に掲載されていました。
【イベントレポート】【CP+2019】シグマ、フルサイズカメラを2020年に投入 – デジカメ Watch
やはりフルサイズ Foveon センサの開発が難産なようですね。「現在は開発自体はほぼ終了しており、画質の追い込みや製造工程の最適化を行っている最中」ってそれフルサイズセンサの開発の最重要工程がまだ残ってるってことじゃないですか(;´Д`)。初代 SD1 の初値が 70 万円になったのも Foveon センサの歩留まりが理由だったというし、心配するなというほうが無理。
一方でセンサ方式については Merrill 世代同様の R:G:B=1:1:1 に戻すようで、扱いやすくなった反面 Foveon らしさが薄れた Quattro 方式をやめ、改めて完全な色解像を目指す模様。まあベイヤー式センサも超高解像度化とローパスフィルタレスの一般化で差を詰めてきているのは事実なので、妥当な方向転換だと思います。ここまで来てあえてシグマ製ボディを買おうというユーザーなら、扱いにくさこそ勲章みたいなものでしょうし(ぉ。
続いてキヤノンブース。ついに「とあるフォトグラファー」扱いではなくなった南雲暁彦さんのインタビュー映像が巨大スクリーンで出迎えてくれます。
ブースでの展示のメインはもちろん EOS R SYSTEM なわけですが、新製品の EOS RP については既に先日ショールームでじっくり触ってきたので今回はスルー。土日にここでタッチアンドトライ行列に数十分並ぶくらいなら電車で品川なり銀座なりまで行った方が早く触れるんじゃないでしょうか(笑
開発発表されたばかりの新 RF レンズ群の試作品(?)が参考出品されていました。
まずは大三元、F2.8 通しズーム三本。広角と標準についてはまあミラーレスといっても大三元ならこれくらいだよね、というサイズ。広角が 16-35mm ではなく 15-35mm と少し広くなっているのがそそります。
それでも最注目はやっぱり RF70-200/F2.8L じゃないでしょうか。「望遠ズームの高級品はインナーズーム」というこれまでの常識を覆す繰り出し式のズームで、標準ズームと大差ない縮長に収めています。これなら従来コンパクトさ重視で F4 通しズームを使っていたような場面でも躊躇なく F2.8 ズームを持っていけるんじゃないでしょうか。他社よりもシステム全体のコンパクトさを志向する(デカい重いレンズもあるけど)EOS R システムの象徴的存在として楽しみなレンズです。
そして二本の RF85/F1.2L レンズ。片方は通常の、そしてもう片方はミノルタ/ソニーでいう「STF」のようなフィルタを備えて滑らかなボケを追求したレンズです。
重さ、値段ともに私の手が出せるレンズではないと思うので、特にコメントはありません(ぉ。それでもこういうのを二つまとめて出せるのがキヤノンの底力だよなあ。
高倍率ズームの RF24-240mm。単品で見るとちょっと大きく、EOS RP へのつけっぱなしレンズとしてはもう一回りコンパクトにしてほしい…と思いますが、縮長がほぼ RF24-70/F2.8L と同じサイズ感というのは冷静に考えるとけっこうがんばっているんじゃないでしょうか。
さて、今回の CP+ キヤノンブースで密かに EOS R SYSTEM よりも注目していたのがこちらのコーナーです。
ブースの側面に新コンセプトカメラ群の参考展示が行われていました。
まずこちらは年明けの CES でも一部で話題になっていた「キッズミッションカメラ」。子ども向けのファーストカメラという位置づけで、それ自体は今までにもあったコンセプトだと思いますが、これのいいところは中身がキヤノンの普通のコンパクトデジカメと同等(と思われる)な点と、カメラ遊びを通じてコミュニケーションと子どものリテラシ向上に寄与しようという仕掛けが入っている点。
カメラ自体は EOS 5D シリーズをそのままキッズサイズに縮小したようなデザインで、素通しの光学ファインダがついていて「覗きながら撮る」ことができます。レンズは単焦点のようですが、先端にマクロリングライトが標準装備されているのが面白い。写真にはライティングが重要ということをこの時点から刷り込まれる子どもの今後の成長が怖い(笑
展示されていたのは非動作モックのみでしたが、CES ではブラックのみだったのが「CES で子ども向けならもっとカワイイデザインがいい」という声が多かったため、CP+ に向けて急遽カラバリモックを起こしてきたとのこと(笑。これがこのまま製品化されるとは言えませんが、玩具ではなくそれなりにちゃんとしたカメラを作ろうとしているのがボタン類の配置から分かります。
「ミッションカメラ」というコンセプトを表しているのが、色や形(ポーズ)、表情などのテーマをカメラが子どもに与えて撮らせ、それぞれのテーマに基づいたギャラリーを作ったりプリントアウトして楽しもう、という遊び方。ただ漫然と興味あるものを撮るのではなく、写真を撮る上でのテーマを設定するという考え方が長年写真文化に携わってきたカメラメーカーらしい。またコンセプトムービーではこのカメラでの遊びを通じて親子間のコミュニケーションにも役立てようという意図が見て取れます。今や生まれて初めてのカメラが親のお古のスマホだったりニンテンドー DS だったりする時代、写真をいきなり SNS にアップして大問題になる前に親子での写真コミュニケーションを通じて「何が良くて、何がダメなのか」を学べるというのは、キヤノンがどこまで狙っているかは分かりませんが面白い考え方ですよね。
ただこれは製品化にあたってはいくらなら買ってもらえるか、最低いくらの商品になる前提なら量産できるのか、のせめぎ合いが難しそう…というのをスタッフの方の話から感じました。
こちらは何ペリアハローなのかと思ったら(ぉ)「インテリジェントコンパクトカメラ」とのことで、カメラが勝手に撮ってくれるコンパクトカメラという位置づけ。ここに展示されていたのは製品化する際を想定したデザインモックですが、↓に原理試作相当品のデモを行っていました。
こういう見た目だと監視カメラの亜種にしか見えませんが、台座についている上半分が 360° 回転し、上下方向にも首振りすることで、全方向に自由に向きを変えながら撮影してくれます。ユーザーは特に操作する必要さえなく、カメラが自動的に画像認識や音声認識で被写体を捉えて撮影してくれるとのこと。
…でも待てよ、このコンセプトって一体何テリジェントパンチルターなのかとは思いましたが(笑)あれから十年経って画像認識や音声認識のレベルが飛躍的に向上し、画像をスマホに飛ばすことも当たり前になった現在であのコンセプトがどう化けるか。ただ「機械が勝手に撮っておいてくれる」ことへの気持ち悪さみたいなものもあると思うので、例えばもうちょっと擬人化(キャラクター化)することで被写体とのコミュニケーションを積極的に図るとか、やりようはいくらでもありそうではあります。
続いて「アウトドアアクティビティカメラ」。カラビナがついてアクティブに使えたり、水に浮いたり、フェイスプレートでカスタマイズできたりするカジュアル志向のコンパクトカメラ…ということですが、特に私からコメントはありません(ぉ
最期は「マルチファンクショナルテレフォトカメラ」。形だけ見ても何をするためのものか分かりませんが、単眼鏡のようにして使える超望遠コンパクトカメラとのこと。
このクリアケース内に展示されていたのはあくまで非動作品のデザインモックですが、カメラ後部のアタッチメントは取り外しができ、アタッチメントありだと EVF を覗き込みながら、アタッチメントなしだとスマホやタブレットの画面を見ながら撮影するスタイルになる模様。
ターゲットとしている商品像は重さ 100g で 100mm/400mm の「二焦点」カメラ。あえてズームせずに二焦点の切替式にすることで低価格化とコンパクト化を実現するというのがコンセプト。400mm(相当)の単焦点だと被写体を追いづらいため、100mm(相当)で被写体の当たりをつけた上で 400mm(相当)でに切り替える、という使い方を想定しているそうです。写真用カメラではなくオペラグラス代わりとしてはかなり良さそうなコンセプトですが、今の悩みの一つは「サッカーなどのスタジアムスポーツでは 400mm でもまだ全然足りないこと」だそうです。
原理試作相当の動作品はモックよりも二回り大きなサイズで 3D プリンタで外装を作成したものでした。この試作機は 400mm(相当)はあくまでコンセプトを伝えるためにデジタルズームで実装したそうですが、実際に製品化される場合は光学切替で 100mm/400mm を入れ替えることになるとのこと。
現在想定しているスペックは「コンデジ相当のセンサ(1/2.3 型程度と思われる)と 100/400 切替レンズ、EVF 内蔵」とのこと。LCD を搭載しないため EVF の品質にはそれなりにこだわりたいとのことですが、ミラーレス機の EVF デバイスを流用してもコストがかかりすぎるのが悩みどころだそうです。
スマホのカメラ性能がどんどん上がって広角域なら「これで十分」になってしまった感はありますが、超望遠レンズまで内蔵するスマホはそうそう出てこないでしょう。通常なら対抗するために高倍率ズームレンズを内蔵することを考えるでしょうが、超望遠にこだわり、かつ二焦点に割り切ることで「スマートフォンコンパニオン」として誰にでも使えることを目指したコンセプトが面白い。価格的にもコンデジと同等以下の価格帯を意識しているようで、個人的には今回のキヤノンブースの中ではこのカメラが一番気に入りました。とかくカメラとしての存在価値ばかりを求めてどんどん大きく重く高価くなっていく他のカメラと違い、スマホが世の中に浸透したことを受け入れて、その上でスマホにはない付加価値を生み出そうとしている。
これらの新コンセプトカメラ群がキヤノン内ではどういう位置づけで、どの程度の規模で開発されているのかは分かりませんが、少なくとも商品ラインアップが減りライフサイクルも延びたことで余剰になった開発リソースでこういう模索ができるのはさすがキヤノンだなあ、と。フルサイズミラーレスがほぼ出揃ったことでどのメーカーも同じようなところを目指して同じようなことをやっているという印象が強かった今年の CP+ で、このコーナーだけが異彩を放っているように見えました。
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