神奈川県横浜市関内の大トロ頭肉と鶏の水炊き

「冬にうまい鍋が食えると、しみじみホッとする」

ドラマ『それぞれの孤独のグルメ』聖地巡礼もついに最後の目的地となりました。今回の聖地は横浜関内、Season3 に登場したパタンの第一亭からは徒歩圏内です。というか Season9 のトルーヴィルや Season10 のばるもこの周辺だし、番組的には妙に野毛～伊勢佐木町エリアに縁がある。いかにも『孤独のグルメ』に似合う土地ですからね。

お店はそんな伊勢佐木町の歓楽街から一本裏手に入ったところにある老舗の居酒屋です。店構えからして立派で、なんか前田吟似の板前さんが「今日はなんにしましょう？」と訊きつつおまかせでいろいろ出してくれそうなイメージ（笑。普段はあまり来ないタイプの店だからちょっと緊張します。

鳥獣菜魚あい川

店先では劇中にも登場した水炊きのホワイトボードが。当店人気ナンバーワン、こう寒くなってくると水炊きとか食べたくなるよね、それも一番オーソドックスなやつがうまいんだ。〆はラーメンがおすすめと言われると、もう最初から最後まで勧められるがままに食べたい。

では、たのもー。

店内、外観と同じく老舗感ある。かといってかしこまる必要を感じるほどではなく、程良く落ち着けます。

そんな雰囲気なのに意外にも（？）食べログのネット予約に対応していて、今回は食べログからあえてのカウンター指定で予約して訪店しました。通されたのは今回のゲスト主人公であるタンカー船長・中町洋介（演：川原和久）の席。

上品な文字で丁寧に書かれた短冊メニュー、どれも惹かれる。
注文を受けてから捌く穴子、ってのも気になるなあ。

カウンターの中でキビキビ仕事している大将、一見すると寡黙な職人肌に見えるけど話してみると実に気さくで感じの良い方でした。ちょっとしたお話からも食材や調理に関するこだわりが伝わってきて、それだけで信頼ができる。

手元のお品書きは紙じゃなく木を薄く削ったものに、これまた手書き。
品数がめちゃくちゃ多い上にどれも美味しそうなんだよなあ。鮮魚系中心かと思ったら肉料理もけっこうあるし。全容を把握するには何度か通う必要がありそう。

ま、とりあえず生ビールから。
突き出しが二品も出てくるのが嬉しい。ちょっとしたものだけどどちらもしみじみとうまい。

ちなみに今回は横浜で聖地巡礼するなら誘うしかないと思って与倉ドライブインに続きクマデジさんにご一緒いただきました。
年の瀬に、飲み屋さんで二人しみじみ忘年会。

料理はまずお刺身から始めていきます。
こちらは中町が食べていたマグロの大トロ頭肉（ずにく）。ほとんど噛む必要もなく、口の中で溶けていく感覚の大トロ。しっかりとしたうまみが極上。

うまい。うん…うまいな。

そして北陸民としてはこの時季頼まずにはいられなかった天然寒ぶりの三種食べ比べ。腹上・腹中・腹下の部位ごとになっています。腹下から腹上に行くにつれて脂乗りが良くなっていきます。
年の瀬にこれを食べると田舎に帰ってきたような気分に浸れます。大将曰く「能登半島を越えると仕入れ値が倍になるから福井産しか買えなかった」とのことですが、福井産でも北陸の天然ぶりが横浜で食べられるだけで幸せ。

続いて、これが五郎が食べていた豚の角煮。
豚肉も豆腐も見るからによく煮込まれてるのが分かっておいしそうだけど、一般的な豚の角煮にはついてこないようなものが付属します。

それがこのメレンゲ＋卵黄！
これをレンゲでさっくり混ぜ、角煮に乗せて食べるのがあい川流らしい。

よく考えたらメレンゲって卵白が原料だから、これで卵一個分か。おいしいのに食品ロスもないなんて、なんと素晴らしい。

生まれて初めてメレンゲで食べる角煮…うまい！うますぎる。
角煮そのものにはちょっとしょっぱいくらいに味がしみてるところをメレンゲと卵黄が加わることでふわっふわ。すき焼き風味のタレにこの卵、まさに新食感のすき焼き。

これはもうビールが追いつかない。ということでハイボールへ。
心なしか、他の居酒屋で飲むハイボールよりもおいしい気がする。

続いても五郎’s セレクション、「いもまんじゅうバター焼」。私もメニューを見て気になってました。聞いたことない料理だけどこの店の創作料理らしい、それも先代から五十年続く伝統の味だとか。

ほぉー！これは初めての味、面白いじゃないか。
どんなものかと思ったら、マッシュポテトに挽肉を仕込んでバター焼きにしたようなものでした。しかもその上にたっぷり冷たいタルタル！タルタリスト俺、大歓喜。他の上品な和食系メニューとはベクトルが違うけど、こういう料理が間に挟まると味覚が変わって楽しい。

これまた五郎が食べていた「里いもの揚げだし」。豆腐や茄子ならよくあるけど、里いもってのが珍しい。いもまんじゅうに里いも、イモがダブってしまった。でも大丈夫、芋のアプローチが全然違う。

出汁を主体としたやさしい味、里いもの香りや食感と相性抜群。むしろ揚げ出し豆腐よりホッとする料理かも。

こういう料理には日本酒だよね、ってことで八海山。
グラス入りの枡で飲む日本酒っていいよね。グラスが空いても枡に零れてるのをグラスに注ぎ換えて飲めるのがなんか得した気分になる。

でもって、ここで満を持して鶏の水炊きのご登壇！
カセットコンロに土鍋で、目の前でグツグツ言うのがたまらん。待ちきれずに途中で蓋取って食べ始めたいくらいだ。

煮えたかな…そろそろかな…よし、

仕上がりました！
鶏肉と鶏つみれたっぷりの水炊き。見るからにいろんなうまみが溶け出したスープ。

ほぉ、鶏もめちゃくちゃうまいよ。鶏だけじゃなく豆腐も、白菜から春菊に至るまで全部うまい。
やっぱりこのスープ、普通の水炊きと違う。しっかりした味なのにスッと飲める。そういえば博多出張スペシャルで水炊きじゃなくスープ炊きというのがあったけど、これもあれに通じるものを感じる。

大将が「〆にラーメンするならスープは残しておいてくださいね。後からスープを足しても煮込んだ鍋ほどおいしくなりませんから」と仰って、きっとスープ自体にも秘密はあるけどこの鍋の中で完成する味なんだろうな。

こんなうまい鍋料理には焼酎が欲しくなる。そこで佐藤の黒をいただいてみました。
激うまスープでとろけた味覚を冷たい芋焼酎でキュッと締める。この落差がたまらず、いくらでも飲み食いできそうに感じる。なんだか胃袋が元気になってきた気がする。

大将が隣のお客さんに「今日の鯖は 1kg 超えてて脂乗ってますよ」という話をしているのが聞こえてきたので、こちらも〆鯖を頼んでみました。鯖で 1kg 超ってかなりの大物。
皮と身の間に、小ぶりの鯖には見られない白い脂の層ができてて、ここがうまい。また腹身のところもよく脂が乗ってる。こってり、しっとりとした上物の鯖だ。

食欲がもう止まらない。メニューを眺めててカキもうまそうだよね…という話になり、カキバターを追加注文。
身はちょっと小さめだけどその分うまみがギュッと凝縮されていてうまい。タルタルがかかってるのも良いし、何よりカキのうまみが浸みたバターソースそのものがご馳走だ。

ここで水炊きの〆のラーメンが出来上がりました。
鶏肉と野菜のうまみを湛えたスープがラーメンと合わさることでまた新たな地平が広がる。薬味を散らしてにんにく醤油をちょっと垂らすとより深い味。極上にうまかった水炊きの思い出が、ラーメンと共に心に刻まれた。

いやあ…どれもおいしかった。
調子に乗って頼みすぎたか。でも、大将も喜んでくれたようで何より。

また来たい、というより「常連になりたい」と思える店だった。
劇中では中町が若い頃に船長に連れてこられた店に数十年ぶりに来てみたという設定だったけど、いつの間にか自分もこういう店に誰かを連れてくる立場になったのかもしれないな。

他にも食べたいメニューはまだまだあるし、きっとまた来ます。
ごちそうさまでした。

これにて私の『それぞれの孤独のグルメ』の聖地巡礼もコンプリートしました。レギュラーシーズンとは趣向の異なるドラマだっただけにお店も個性的で、セルフ食堂のおかあさんと仲良くなったりサウナを浴びたり、かと思えば教会で礼拝に参加したり…いろいろあった聖地巡礼だった。
この冬はこの後も大晦日スペシャル、そして年明けの劇映画と『孤独のグルメ』はまだまだ続きます。なお、大晦日 SP のスタート地点はこちらになるようです。